いつもの日常

 翌朝、真希と祥子と咲は明より先に駅のホームに着いていた。

 真希はカンカンに怒っていた。

 昨日、明が太鳳の後追って学校をサボった事についてだ。


 やはり明は太鳳から悪影響を受けている。

 二人の交際を断じて認める訳にはいかない(交際してない)。

 私が明の目を覚まさせる。久しぶりに真希の目に火が付いた。


 祥子と咲が必死に真希を宥めたが明を問い詰めると言って聞かない。

 こりゃ駄目だ、と二人はお手上げ状態だった。

 そのうち明がやって来た。


「おはよう」

「アキラちゃん、おはよう」

「おはよーっす」

「シオ!」

 真希が険しい顔で明に詰め寄る。


「あんた何考えてんの。こんな大切な時期に学校サボるなんて」

「サボりじゃないよ、生理痛が酷かったんだって」

「そんな見え透いた嘘。電話も出ないし、チャットも見ないし、一体どこで何してたの」


 明は溜め息を吐いて一言。

「勉強」

「は?」

「だから勉強。テスト勉強してたの」

「……それサボる必要あった?」

 真希は困惑し、咲と祥子は互いに顔を見合わせた。 


 明とて学校をサボってまでする事がまさか勉強になるとは思ってもみなかった。

 あれから明と太鳳はファミリーレストランに移動し日が暮れるまで勉強に励んだ。

 太鳳は真剣そのものだった。明に赤点を取らせたくないというのは本当らしい。

 明が躓いている問題を一緒に考え、時には教えたりもした。

 太鳳の赤点回避の為がいつの間にか立場が逆になっている。


 どうして太鳳が高校受験に合格できたのか不思議でならなかったが、それが分かったような気がした。

 今は赤点の常習犯だが本来は明と同等かそれ以上の学力があるのかもしれない。


 正直、期待していた部分もあった。だがちっともそんな雰囲気にならなかった。

 私には女性としての魅力がないのだろうか、と明は初めてそんな事を真剣に思い悩んだ。


「これでは赤点回避してしまう」

「いや、しろよ」


 何か、思っていたのと違う。真希はすっかり毒気を抜かれてしまった。

 明が噓を言っているようには見えない。

 どこか不服そうな物言いからして、当初勉強するつもりはなかったのではないだろうか。

 明にその気がなかったという事は勉強に誘ったのは太鳳という事になる。

 だったらサボるな、に原点回帰するのだが、もしかしたら太鳳は私が思うような堕落した人間ではないのかもしれない。

 問い詰めるのは一旦保留にして、もう少し様子を見ようと真希は決めた。


 学校に着き、教室へ行き、まず始めに太鳳の席を確認するのが明の日課になっていた。

 まだ太鳳は来ていない。

 ホームルームが始まり、一時間目の授業が始まっても太鳳は来なかった。


 寂しく思いながらも、親しい友人に囲まれ、それでも楽しく時が過ぎていく。

 

 今日もいつもと変わらぬ日常が過ぎていくのだと明は思っていた。

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