初めてのサボり その2

 火曜日。太鳳が学校に来た。

 明が「よっしゃー」と拳を突き上げる勢いで喜んだのも束の間、太鳳の異変に気付いて拳は直ぐに引っ込んだ。

 疲れた顔をしている、のはいつもの事だがそれに加えどこか張り詰めた空気を纏っていた。

 周りの人もそれを感じるのか、太鳳の友人でさえ声を掛けられずにいた。


 三時間目の授業が終わり、太鳳は緩慢な動作で教科書を片付けた。

 暫くぼんやりと宙を睨んでいたがリュックを持って席を立った。


「あれ、クラ、帰んの」

 友人の呼びかけに軽く手を挙げて応え、太鳳は教室を出て行った。

 それを見ていた明は居ても立っても居られず、同じくリュックを持って立ち上がった。


「どしたん、ウッシー」

「帰る」

「え?」

「お腹痛い、から帰る。生理激重」

「えっ、ちょっ、ウッシー!」


 祥子の呼び止める声を振り切って明は教室を出た。

 付かず離れずの距離を保ちながら太鳳の後を付けた。

 今は休憩時間。多数の生徒が行き交う廊下で声を掛けるのはまずい。校舎を出るまでは我慢だ。


「おい、待て小僧」

 校門を抜け、明は太鳳の背中に声を掛けた。

 太鳳は半身反らして明を見やったが直ぐにまた歩み始めた。

 明は慌てて太鳳の隣に並ぶ。


「こんな所で会うなんて奇遇ですな」

「ずっと後を付けてたくせに」

 バレてた。

「これからどうするの。うち帰る?」

「適当にどこか」

「じゃあ、まずはお昼にしようよ」

「何、付いてくんの」

「嬉しいでしょ」

「……はい」


「どこで食べる? お弁当広げられる所探さないと」

「今日、弁当持ってきてない」

「そう、なんだ。私も今日は学食にしようと思ってたから何も」

 嘘。リュックにパンが入っている。


「どうする、何食べる? ぱあっと何か美味しい物食べようよ」

「あ」とすかさず思いついて明は言った。

「鰻。鰻食べよ。私行きつけの美味しい鰻屋さんに連れてってあげるよ」

「おいくら万円」

「六千円万円」

「高えわ」

「奢る奢る」


 太鳳は眉を顰めた。

「駄目。子供がそんな大金を容易く他人のために使うのは良くない」

「じゃあ、貸す。出世払い」

「借りてまで食いたくない」


「じゃあ、誕生日。誕生日プレゼントに鰻をご馳走って事で」

「まだ一か月早えわ」

「ウミツキの誕生日、今日だよ。知らなかったの」

「それきっと違うウミツキさんの誕生日」


「もう、つべこべ言わず黙って奢られなさい。行くぞ」

 明は太鳳の手首を掴んで先導して歩いた。

 太鳳はもの言いたげに口を開いたが結局何も言わなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る