初恋 その5
「ウシオって彼氏いないの」
「え、いないけど、何、急に」
「今更だけどウシオに彼氏がいたらこうやって密会するの良くないじゃん」
「付き合ってる人がいたら、そもそもこんな風にウミツキとは会わないよ」
「過去に付き合ってた人は」
「付き合った事ない」
「へー、意外……でもないな。お前なら何か納得」
前に似たような台詞をどこかで聞いたような。
「そういうウミツキはどうなの。好きな人とかいないの」
「いないねぇ」
太鳳はようやくシフォンケーキを食べ始めた。
「私、初恋もまだだったんだ。ウミツキの初恋はいつだった」
太鳳は視線を上にして思い出そうとした。
「小学……いや、中一かな」
「どんな子だった」
「クラモチ」
「……え?」
「だからクラモチ。クラモチサキ。お前の友達の」
「え、サキ? ……サキ!?」
太鳳は黙々とケーキを食べ「美味し」と呟いた。
「何で」
「中学の時、三年間同じクラスだったんだよ。席が隣だった事もあるし、女子の中じゃ一番話してた。あいつ物腰柔らかいし、よく笑ってくれるし、優しいし、愛嬌あるし、可愛いし、これで好きになるなって方が無理あるでしょ」
明は頭が真っ白になった。樹脂で固められたかの如く動けない。
「それでどうしたの」
「どうもしない。片想いのまま終わった」
「え……、振られたの?」
「振られる前に告白してない。クラモチに対してそういう気持ちがなくなったってだけ」
明は幾らか落ち着きを取り戻してきた。メロンソーダを一口飲む。
「どうしてなくなったの」
「色々あって、そういう事に割く心の余裕がなくなった」
前に咲から聞いた話を思い出した。
太鳳は中学二年生になってから遅刻や早退を繰り返すようになり、一か月くらい学校を休んだ事があったと言っていた。
その色々が起きたのはきっとこの時期だ。そして今もそれが続いているのではないか。
「そうなんだ」
だが明はその色々を今は聞かなかった。
「それにしてもビックリしちゃった。まさかサキの名前が出てくるなんて思わなかったし。よく言う気になったね」
「ウシオに知られて困る事じゃないし。それともクラモチに言う?」
「言わない、言わない」
言う訳がない。それで二人の関係が発展でもされたら。
明は太鳳をちらりと見た。
海月は咲みたいな子が好みなんだ。小さくて可愛いらしい。私は。
「そういや日曜、何で家にいたの」
明の動きが再び止まった。
「……遊びに、来た」
「俺いないって前の日言ったよね」
何か誤魔化さないと。
明は必死に考えた。
この時のために美里と口裏を合わせたはずなのにそれをすっかり忘れている。
「……暇、だったから、お母さんに、電話したら、いいって」
「ウシオに家電の番号教えたっけ」
「お母さんの、携帯の、番号、前に、教えて、もらった」
「仲いいな、君達」
「今度一緒に買い物行く約束した」
「仲いいな!」
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