初恋 その4
涼める場所ならどこでもいいと太鳳が言うので、ここじゃい! と適当に歩いて見つけたカフェに入った。
真希達がこの店に来ない事を祈るばかり。
店内は古風な内装が施されていて客の年齢層も比較的高そうというか明と太鳳以外子供がいなかった。
場違い感がすごいな、と太鳳は委縮していたが明は特に気にした様子もなく涼しい顔でメニュー表を眺めていた。
「私、プリンアラモードとメロンソーダにしよっと。ウミツキは決めた?」
やだ、ここのカフェ、どれもお値段張るじゃない! と太鳳はメニュー表を見て二重で委縮していた。
「……決めました」
シフォンケーキとアイスココア。
「じゃあ、呼ぶよ。すみませーん」
注文を済ませ、明は改めて店内を見回した。
「雰囲気あっていいね、ここ」
「我々、場違い感すごくないですか」
「そう? そんな事ないと思うけど。こういう店は初めて?」
太鳳は頷く。
「正直怖気ついています」
明はくすりと笑った。
「何で? 堂々としてればいいよ。怖がる事なんて何もないから」
そういえばいつの間にか明の機嫌が直っている。
本気で怒っていた訳でないのは雰囲気から察していたが面倒くさい事にならずに済んでよかった。
そのうち注文した品々が運ばれてきて明はスプーンを手に嬉しそうに食べ始めた。
「美味し」
「今日は写真撮らないの」
「撮らないよ。どうして?」
「や、クラモチとかに送ったりしないのかなって」
「送らないよ。あれはウミツキだから送ったんだもん」
明があまりに平然と言ってのけるので太鳳は言葉に詰まった。
「ねぇ、ちょっと交換しようよ」
「え、あぁ、うん」
太鳳はまだ手を付けてないシフォンケーキを差し出した。
明はケーキの先端をフォークで差して切り、生クリームを多めに掬って食べた。
「うん、こっちも美味しい」
君、ちょっと取り過ぎじゃない? と太鳳は若干イラっときた。
「ほら、ウミツキもいいよ」
明もプリンアラモードを差し出す。
太鳳は明の口を付けてない方をちょっぴり掬って食べた。
「どう?」
「あぁ、美味いよ」
よく味わえる程食べれた訳ではないので適当に答えた。
「ねぇ、二人だけの合図考えない?」
「合図?」
「手振り返すの恥ずかしいんでしょ。だったらウミツキがやっても恥ずかしくないやつ考えようよ」
「俺だって街中だったら普通に振り返してるよ。知ってる顔の前だからやらないってだけで」
「いいじゃん、周りにばれないようにやるのが楽しいんだから。ウィンクするのはどう?」
「絶対やだ。俺がウィンクするの想像してみろよ、気持ち悪いだろ」
「全然。素敵だと思うよ」
「……とにかくやだ」
「じゃぁ、ハンドサイン。私がコンコンってやるから」
明は左手で狐の形をつくり、口をぱくぱく開かせた。
「ウミツキはワンワンってやって」
今度は犬の形に変え、口をぱくぱく開かせた。
「ばれるっつの」
太鳳は小さく息を吐いた。
「いっその事、普通に教室で話してみっか。俺を好きな女子なんていないだろうし、それでウシオが嫉妬される事もないでしょ」
「確かにウミツキを好きな子なんて他にいないだろうけど」
自分から言い出した事ではあるが明にも肯定されて太鳳はちょっぴり傷ついた。
「でもウミツキが嫉妬の対象にされるかもよ」
「今度は俺が校舎裏に呼び出しか」
「私のせいでウミツキが嫌な思いするのはやだな」
太鳳は冗談のつもりで言ったが明は深刻に捉えていた。
人の身を案じておきながら人に気付かれる事を平気でする。
この一貫性のなさは何だ。
「そう思うなら合図は諦めるんだな。万一ばれたら俺は校舎裏コースだし。この関係を隠し通したいなら徹底しないと」
「……うん」
しゅんと項垂れる明を見て太鳳は苦笑した。
そんなに合図がしたかったのか。
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