初恋 その3
咲が人攫いに遭っている頃、明は一足先に白金台駅にいた。
ここで太鳳と落ち合う約束をしている。
改札から抜けてくる人々の中に太鳳の姿を見つけ、つい頬が緩みそうになり、はっとして気を引き締めた。
いけない、今日の私は怒っているんだった。
太鳳は辺りを見渡し壁際に佇む明を見つけた。が、異様な雰囲気を察し足が止まった。明は腕を組み、険しい表情でさも私は怒っていますと露骨にアピールしていた。
何かもう帰りたくなってきた。
これ絶対面倒くさくなるやつじゃん!
太鳳は渋々明の元へ向かった。
「おう」と明。
「おう」と太鳳。
「私は怒ってます」
「だろうな」
「理由は分かりますか」
「朝、手振ったの無視したから」
「分かってんじゃん。どうして振り返してくれなかったの」
「だって恥ずかしいだもん!」
「小学生か!」
「誰かに気付かれて困るのはそっちだろ。今だってわざわざ電車ずらして待ち合わせしてるくらいなんだから」
太鳳は鈍くない。
明と接点がなかった頃から、明が異性に対して慎重に行動しているのは端からでも見て取れた。
そもそも明が男と二人でいるところを学校で見た事がない。
黒田の件からしても異性に纏わるトラブルが後を絶えないのだろうと推測できる。
だから接点を持った今、明がリスキーな行動を取るのが不可解でもあった。
そして明も自分が迂闊な行動を取っているのは分かっていた。
「それはそうだけど……」
ふと改札の方に目をやると見慣れた人影を捉えぎょっとした。
真希達だった。
明は太鳳の腕を掴んで駆け出した。
「え、何、何?」
困惑する太鳳を無視してエスカレーターに乗って地上へ出た。
どうしよう。
今日、太鳳を白金台まで来てもらったのは甘い物を一緒に食べるといういつかの約束を果たすため、この近場にあるカフェへ連れていくつもりだった。
そこのパフェが明のお気に入りで是非太鳳にも食べてほしかったのだが、その店は真希達も当然知っていて(というより真希にその店を教えてもらった)、もしかしたら目的地が同じなんて事もあり得る。
どこか違う店を。
美味しいスイーツの置いてある、かつ真希達がいかなそうな……。
そんな店知らん!
この白金台に於いて明が知っていて真希達が知らない店など一つもない。
明が知っている店は全て真希達から教えてもらったものだ。
もはやこの白金台から離れるしかないのか。
面倒くさ!
「ねぇ、どうしたのよ」
太鳳は掴まれた腕を軽く振った。
離せという意味で振った訳ではないが明はなおの事掴んだ手に力を込めた。
「こっち」
ここで突っ立ていたら直に真希達に見つかる。
取り敢えず歩き出した。太鳳にここへ連れてきた理由をまだ言ってない。
残念だがパフェは次の機会にしてどこか適当な、適当な……。
明は太鳳に振り返った。
「どこか行きたい所ある?」
「呼び出しといて行くとこ決めてないのかよ!」
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