初恋 その1

 木曜日、太鳳が学校に来た。


「お、クラだ」

「今度はどこへバカンスに行ってたんだ」

 太鳳に気付いた友人達が声を掛けてきた。

 太鳳は自分の席にリュックを置き、友人達の元へ向かって一言。

「ノート貸してええええ」

「第一声がそれかよ」

「ノート貸してええええ」

 太鳳は友人の一人に覆い被さった。

「うぜえっ! やめろっ!」

「ノートオオオオ」

「何かこういう妖怪いそうだな」


 ノートを借りる事に成功した太鳳は大人しく自分の席へ戻っていく。

「新種の妖怪が現れちまったな」

「ああ、あれが妖怪『ノート貸せ』だ。ノートを貸すまでウザ絡みしてくるクソ迷惑な奴だ」


 遠目から見ていた明はほっとした。

 いつもの太鳳に戻っている。

 じっと太鳳を見ていると目が合い、こっそり胸元で小さく手を振ったら無視された。


 明はむっとした。

 何だ、その態度は。

 振り返すなり手を挙げるなり何かしら反応してくれてもいいじゃないか。

 折角今日は一緒に昼食を摂ろうと思っていたのに、そんなつれない態度を取るのならやめてやる!


 ふと机の上を見ると祥子が持ってきたグミがあった。

 祥子は真希達とのお喋りに気を取られている。

 明は構うものかと最後の一つを口の中に放り投げた。


 昼休み。教室に太鳳はいない。きっとまたどこかで一人昼食を摂っている。

 さっきまで腹を立てていた明だったが昼休みが近づくにつれその気持ちも萎えていった。

 やっぱり太鳳と一緒に食べたいです。


 しかし明は既にいつもの面子で昼食に入っている。

 どうやったら怪しまれずに太鳳の元へ行けるだろうか。

 二度もトイレを理由にできない。

 何か、何かいい方法はないか。


 眉間に皴を寄せ、宙を睨む明を真希達は怪訝な目で見ていた。

「どうしたの、シオ。食べないの」

 明はじろりと真希を見て、いきなり祥子の腕を取りきゅっと締め上げた。

「何でーっ!?」


 明は諦めた。あきらだけに。

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