疲れただけ

 月曜日。太鳳は学校へ来なかった。

 やっぱり、と思いはしたが寂しかった。


 火曜日。太鳳は学校へ来なかった。

 流石に不安になった。どうしたんだろう、二日連続で休むなんて。

 だけどよくよく考えてみれば知り合う前から連続で休む事は多々あった。

 気にしすぎだろうか。気にしすぎであろうとメールは送った。


 ――元気? 明日は学校来れる?


 しかしその日の返信はなかった。


 水曜日。今日も太鳳は学校へ来なかった。メールの返信も未だない。

 放課後、美里へ電話を掛けようか逡巡したが「しゃらくせえ!」と海月家へ乗り込む事にした。


 海月家の前に立ち、上を仰いだ。

 やはり窓しかない。

 実は太鳳は窓から飛び降りるダイナミックな外出をしてるのでは、と一瞬考え、一瞬で霧散した。


 チャイムを押した。

 すると玄関子機から「はーい」と男の声が流れてきた。太鳳だった。


「あ、ウシオです」

「今開けまーす」

 玄関ドアが開き、太鳳が顔を出した。


「こんにちは」

「こんにちは」

 太鳳の声に生気がない、のはいつもの事だが今日はより増して生気がない。

「風邪?」

「ちょっと、疲れてるだけ」


 太鳳は身体を横にずらした。

「入れよ」


 いつものようにダイニングへ通された。

 太鳳は明をソファーに座らせ、麦茶を出した。

「ありがとう」

 太鳳もソファーに座り麦茶を飲んだ。

 髪が濡れている。

 シャワーを浴びたばかりのようだ。

 服装も以前見た寝間着姿だった。


「お母さんは?」

「夕飯の買い出しに出てる」

「メール見た?」

「……見てない。さっき帰ってきたばかりで、メール見る気力がなかった」

 ごめん、と太鳳は呟いた。

「大丈夫、気にしないで。ウミツキがどうしてるかなって、ちょっと気になっただけだから。私の方こそごめんね、疲れてるのに」


 明はぐいっとグラスを呷り、飲み干して立ち上がった。

「じゃぁ、帰るね」

 太鳳も徐に腰を上げた。

「わるい、今日はちょっと、駅まで送れない」

「いいよ、そんな、全然。ゆっくり休んで」


 段々と来訪した事が申し訳なく思えてきた。

 明らかに太鳳に元気がない。

 心配だったから、なんてそんなのはただの建前で、単に私が太鳳に会いたかっただけだ。

 ただ会いたいという己の欲求を満たすため太鳳に負担を掛けてしまった。

 迷惑な女。


 玄関に着くまでの間に明もみるみる悄然していった。

 靴を履き、太鳳へ振り返った。

「バイバイ。明日、学校来れたら来たね」

 太鳳は小さく二度頷いた。


「ウシオ」


 しょんぼりドアハンドルに手を掛けたところで太鳳に呼び止められた。

「来てくれてありがとう。嬉しかった」

 全く嬉しくなさそうな声と表情。

 けれども明にはそれが心からの感謝の言葉だと伝わった。

 みるみる笑顔になる明。


「楽しみにしててね」

「何を」

 明は手を振り、ドアを閉めた。

 一人ぽつんと残された太鳳は呟いた。

「何をぉ?」

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