デート その2

 喫茶店を出た後、二人はブティックを回った。折角明と一緒なのだ。ファッションやメイクについて勉強させてもらおうとしたのだが。


「がっかりだよ、アキラには……」


 元カリスマモデルのくせして明はファッションやメイクの知識に乏しかった。

 綾香が知っているような事でも明は知っておらず「へ~、そうなんだ~」と逆に感心される始末。

 こいつ本当にモデルだったのかと疑ってしまう程だった。


「よくそんなで今までモデルをやってこれたね」

「私は用意された衣装を着るだけだったから。あとはスタイリストさんに全部お任せ」

「そのスタイリストさんから教わらなかったの」

「んー、基本的な事しか教わらなかったな。素材がいいから余計な事しない方がいいって」


 確かに、今日の明の服装は黒のブラウスにピンクのフレアスカートとごくシンブルにまとめられている。

 名門ブランドを、流行のものを身に着けている訳でもない。

 誰でも簡単に真似できる服装だ。

 それなのに明が着るだけでこんなにも大人っぽく決まって見えてしまう。

 それは単に明が超絶美人でスタイルも良いという身も蓋もない理由からなのか。


「もしかしてアキラに化粧っけがないのは、顔に自信があるからじゃなくてそもそもメイクができないから?」

「両方」

 綾香は溜息を吐いた。

「スバルのSNSから情報発信が無かったのはそういう事か」

「お役に立てず申し訳ございません」


「何か、裏切られた気分。私が見ていたスバルって一体何だったんだろう」

「それはね、夢だよ」

「うっさい」


 信号待ちしている時だった。

 ふと建物の壁面を見ると何時いつかの鎧の影が映っていた。

 息を吞んだ。また目が離せない。

 気のせいだろうか、以前見た時よりも影の輪郭がはっきりと際立ってるように見える。


 明の異変に綾香が気付いた。

「どうしたの、アキラ」

「あれ……」

 指さした方を綾香も見た。

「わ、何これ、すごい影。どの影だろ」


 影の伸びた足元を辿ると段々と薄れ途絶えていた。

 影は動かない。

 影がこちらをじっと見ているような気がしてならない。

 

 嫌な感じがする。背中がぞわりとした。

 信号が青になった瞬間、明は綾香の手を引いて歩き出した。


「え、ち、ちょっと、アキラ?」


 足早に歩く。

 一刻も早くこの場から立ち去りたかった。

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