デート その1

 土曜日、明は三船綾香と一緒に渋谷のとある喫茶店にいた。

 綾香に課していてた宿題のめっちゃ美味しいパンケーキを見つけてきたらしい。


 ふっくら焼き上げた二段重ねの生地にバターと蜂蜜がかかったオーソドックスなパンケーキ。

 綾香がスマートフォンでパンケーキの写真を撮っているのを見て、明も真似して写真を撮ってみた。


「珍しいね、アキラがこういうの、写真撮るなんて」

「そお?」

 後で海月に送るんだ。


「いただきまーす」

 明の食べるさまを綾香は固唾を呑んで見守った。

「美味しい」

「ほんと? あ~、良かった~」

「これはちょっと感動しちゃうくらい美味しい。……うえ~、美味しいよ~」

「取って付けたように噓泣きしなくていいから」


「いいとこ見つけてきましたね、アヤカさん」

「ほんと探し出すの苦労したよ~。ここ知る人ぞ知るパンケーキの名店なんだって」

「ではその頑張りに免じて今回の件は不問に処す」

「はは~」

 二人は笑い合った。


 本当はこの店の事をずっと前から明は知っていた。

 モデル時代、篠に連れられて一度来た事があり、その時に同じパンケーキを食べていた。

 だが明はそれを黙っていた。

 折角綾香が頑張って探し出してきたのだからそれをふいにする事をわざわざ言わなくていい。

 重要なのは綾香が免罪符を貰えたと認識する事だ。

 そのための宿題であり、パンケーキを食べた事があろうがなかろうがどうでもよかった。


「トキタ先輩、アキラを諦めたんだって?」

「うん、アキラだけに」

「それ気に入ってるの?」

「うん」


「私もトキタ先輩に謝られた。無理に頼んで悪かったって」

「そっか」

「クロダ先輩の方は大丈夫?」

「うん、あっちももう平気」

 のはず。


「……ごめんね、アキラ」

「謝るのもう禁止。何のためのパンケーキか」

「うん……、でもさ、反省した。ちゃんと考えればトキタ先輩を紹介したらどうなるか分かっていたはずだから、そしたらアキラに嫌な思いさせずに済んだのに」

「おかげでスリリングな毎日が送れた」

 綾香はふと笑った。


「アキラは彼氏作らないの」

「そのうち気が向いたら」

「アキラの好きなタイプってどんな人?」

「優しい人」

「ありきたりー。それだったらトキタ先輩だって優しいよ。他にあるでしょ」


「そういうの考えた事がないんだよね」

「でも今までに告白された男子全員振ってきたって事は、少なからずその人達は好みのタイプじゃなかったって事でしょ」

「それは確かにそうだろうけど、私にとって恋愛はトラブルの元にしかならなかったから、危険回避のために断ってたところが大きい」


「美人過ぎるってのも大変だね」

「でも綾香とこうやってデートできたのは美人冥利に尽きる」

「あーあ、私が男だったらなー。アキラとデートした男第一号になれたのに」

「そしたらアヤカとデートしてない」

「あー、私はアキラのタイプじゃなかったかー」

 二人はまた笑い合った。

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