先の事 その1
翌日、太鳳は学校へ来なかった。
メールをしようか迷ったが結局やらなかった。放課後にまた太鳳の家に行く事も考えたがそれもやめて今日は久しぶりに真希達と一緒にいる事にした、のだが。
「残念、今日はアタシがバイトなんだなー」
今日は祥子に予定があった。祥子はコーヒーチェーン店でバイトをしている。
祥子は一人暮らしだ。毎月の仕送りはあるものの親に無理を言って東京の高校へ進学させてもらったのだから、生活費くらいは自分で稼ごうと決めている。
祥子なりのけじめでもあった。
「ま、途中までは一緒に帰ろうぜい」
電車の中で束の間の四人の放課後を味わった。駅を出た所で祥子と別れた。
「ショウコちゃん、偉いよね。まだ高校生なのに県外に出て一人暮らしなんて」
咲がぽつりと言った。
「うちらの中じゃ一番の大人だね」
真希が言った。
「中学の時から大学は東京でって決めてたんでしょ。だったら前乗りして高校も東京でいいだなんて、そんな発想はできても行動には移せないな」
「私も。都内だって一人暮らしなんて怖くてできない」
明は黙って聞いていた。真希も咲も祥子が東京に出てきた本当の理由を知らない。
祥子が言うつもりがないのなら明も黙っているつもりだった。
そもそもあの時の事は祥子にとっても想定外の事態だったはず。ずっと溜め込んでいた思いがつい口から洩れてしまったように見えた。
誰にだって知られたくない部分はある。明にだってあるし、真希や咲にだってきっとある。
例えどんなに気の許せる相手でも知られたくない深い部分がある。たまたま祥子の隣にいてたまたまそれを知ってしまっただけだ。
真希と咲なら祥子が東京に来た本当の理由を知っても受け入れてくれると思う。
でもだからといって、何でもかんでも包み隠さず打ち明ける必要はないと明は思う。そんな事をしなくても私達は良い関係性を維持できている。
では太鳳は。
明は太鳳をもっとよく知りたいと思っている。もっと太鳳の深い部分が知りたいし、太鳳の何でもが知りたい。
両者を分けるこの違いは何なのだろう。
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