あなたが知りたい その3
「ただいまー」
玄関で誰に聞かせる訳でもなく独り言のような小さな声で太鳳は言った。
ふと見慣れない、いや、最近見慣れた靴があるのを見つけた。
ダイニングへ行くとキッチンに立つ二つの影があった。
「お帰りー」と美里。
「お帰りー」と明。
「ただいー……何かいる」
「アキラちゃん、こっちはもういいわよ。ありがとね」
明はエプロンを脱いで太鳳の元へ向かった。
「夕飯のお手伝いしてた。人参とじゃがいもの皮剥きしちゃった」
まるで幼い子供のように無邪気に報告する。
「大したもんだ」
太鳳は取り敢えず褒めた。
「夕飯食いに来たの」
「ウミツキに用があって来たの。夕飯は食べてくけど。メール見た?」
「メール?」
太鳳はポケットからスマートフォンを取り出し確認した。
「あ……、ごめん。全然見てなかった」
「やっぱり」
「わざわざこのために来たの」
「だって言ったじゃん。直ぐ駆けつけるって」
「それ俺がメールしたらじゃなかったの」
「いいの。言葉に説得力を持たせるには行動に起こす必要があるの」
尤もらしい事を言いよる、と太鳳は思った。
太鳳がソファーに座ると明も向かいのソファーに座った。
「今度はちゃんとメール見てね。次無視したら授業中に私突然泣き出すから」
「ガチで困惑するのはやめろ。クラスが騒然となる」
さてどうしたものかと明は太鳳をじっと見た。直接本人に聞いてみようか。でも適当にはぐらかされて終わる気がする。
「何?」
「別に、何も」
まあ、いいや。今は一緒にいられるだけでいい。
「あ、そうだ」
明は立ち上がり太鳳の隣に座り直した。身構える太鳳の腕を取りきゅっと締め上げる。
「え、何、何、何すか」
明は意味深に笑うだけで何も答えなかった。
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