あなたが知りたい その2
放課後、明は一人電車に揺られていた。行き先は言うまでもなく海月家。
結局太鳳からの返信はなく、気になった明は直接海月家に押し掛ける事にした。だが家を前にして踏み留まった。何度も来訪して迷惑に思われないだろうか。
チャイムを鳴らそうか引き返そうか、と葛藤していると後ろから「あら」と聞き覚えのある声がした。振り向くと美里だった。自転車に跨り、籠には買い物袋が入っている。夕飯の買い出しに行っていたみたいだ。
「あ、こんにちは」
「こんにちはー。どうしたの、嫁ぎに来たの」
「え?」
「取り敢えず家に入りなさいな」
美里は自転車を降り、籠から買い物袋を取り出した。
「持ちます」
「ありがとう」
美里は鍵を差して玄関扉を開け、家内へ明を誘った。ダイニングの空調を入れ、明を椅子に座らせ、冷えた麦茶を出した。
「ありがとうございます」
美里は買ってきた食材を冷蔵庫に仕舞っていく。
こういうのいいな、と明はうっとりしながら眺めた。
「タオ君は」
「散歩に出たきり戻って来ないのよね。夕飯前には帰ってくるだろうけど、タオに何か用事?」
「大した用事じゃないんですけど、メールしても返事がないからちょっと心配になって」
「ああ、あの子そういうのほったらかしそうよねぇ。戻ってきたらきゅっと締めてやって」
「あの、タオ君って身体弱いんですか」
「いいえ、至って健康優良男児よ。ここ数年風邪も引いた事ない」
体調不良ではなさそうだ。それなら今日はただ学校をさぼっただけか。
明は疑問に思っていた。太鳳が単に不真面目という理由で学校をさぼっているようには思えない。何か理由があるとしたらそれは太鳳がいつも疲れているという事だ。一体何をして疲れているのか。美里の話を聞く限り、疲れやすい体質という訳でもなさそうだ。
聞けば教えてくれるだろうか。
太鳳が学校をさぼっている事を美里は当然知っているはず。そしてその理由も。
しかしこれは太鳳の内面に係わってくる事だ。
知り合ってまだ数日、聞けば包み隠さず教えてくれる程信頼されているとは思えない。
でも私は太鳳を知りたい。太鳳の事をもっとよく知りたい。男の子に対してそういう欲を持ったのは生まれて初めてだった。
「アキラちゃん、これからのご予定は」
「特に何も」
「あ~、じゃあ、もう、うちで夕飯食べるの決まりじゃんね~」
明の反応が薄い。
「あら、もしかして嫌?」
「ううん、そうじゃなくて、ご馳走してもらってばかりでいいのかなって」
「いいの、いいの、子供が遠慮しないで。アキラちゃん、美味しい、美味しい、って言って食べてくれるから作り甲斐があるのよ~」
「じゃあ、食べてくっ!」
「食べて、食べてっ!」
その言葉を待ってました! と言わんばかりの変わり身の早さだった。
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