メール その2
月曜日の朝、髪が思うようにきまらなくて、明は何度も鏡の前で自分をチェックした。こんなに気になる事など今まで一度もなかった。おかげで家を出るのが遅れてしまい、真希達に先に行ってとメッセージを送った。
学校に着き、教室に入ると太鳳はいなかった。ホームルームが始まっても来ない。
一時間目の授業が終わっても、二時間目の授業が終わっても来なかった。
どうしたんだろう、もしかして今日は来ないつもりなのか。メールのやり方を教えると約束したのに。
しかし三時間目の終わりにしてようやく太鳳が来た。いつものように気だるげに席に着く。
明はほっとした。今直ぐ声を掛けたいけど人前では無理だ。相手が太鳳であろうと異性との接触は慎重にならざるを得ない。また黒田のように逆恨みされてはごめんだ。
しかし太鳳と話したい。今直ぐ話がしたい!
眉間に皴を寄せて黙り込む明に祥子は聞いた。
「どしたのウッシー。むっかしー顔して」
「……どうしてこの世はこんなにも不条理なんだろう」
「は?」
四時間目の授業が終わり待ちに待った昼休み、のはずだったが今日の太鳳は教室で昼食を摂っていた。
早く外へ行けと念じる明。
しかしこういう時に限って太鳳は教室に留まり友達と談笑していた。
太鳳を目で追うようになって分かったが、太鳳は単独行動が多いというだけで人見知りの訳ではない。誰かと一緒でも独りでも大丈夫なのだ。
明はポケットのスマートフォンを掴んだ。電話して外に呼び出してやろうか、と逡巡してやっぱりやめた。友達と楽しく話しているのにそれを遮るなんて良くない。それは自分がやられて嫌な事だ。とはいえ段々と腹が立ってきた。
海月の奴、まさか約束を忘れてるんじゃ……。
放課後、明はまたも一目散に学校を出た。また太鳳の登下校ルートで待ち伏せをするつもりだったが駅に向かう途中で電話が鳴った。太鳳からだ。
「はい、ウシオです」
「もしもし、俺、ウミツキ」
「知ってる」
「そりゃ知ってるだろうけど、ここはそういう返しじゃねえだろ」
まあ、いいや、と太鳳は続ける。
「今どこ?」
「駅前のコンビニ近く」
「これから用事?」
「別に、何も」
「じゃあ、そこで待ってろよ。直ぐ行くから」
え、と返したところで電話が切れた。言っていた通り数分後には太鳳が現れた。
「おう」と太鳳。
「おう」と明。
「お前、約束忘れてるだろ。今日、俺にメールのやり方教えるって言ってたじゃん」
明はむっとした。
「それはこっちの台詞だーっ。ウミツキ遅刻するし、昼休みはずっと友達と話してるし、気遣って声掛けないでやったんじゃん」
「お前だってクラモチ達と話してたろ。こっちだって気遣ってたんだよ」
言い合いは睨み合いへ発展し、太鳳の溜め息で終止符が打たれた。
「やめようぜ、不毛な争い過ぎる。俺が悪かったよ」
「……私こそ、ごめん」
「今時間あるならどっかで教えてよ。立ち話もなんだし。白金台に住んでんだっけ。降りる駅も白金台?」
明は頷く。
「じゃあ、そこの近くのカフェとか」
「いい所ある」
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