メール その1

 土曜日、真希は明と白金台のとあるカフェにいた。

 昨日、明から電話があった。


「大事な話がある、明日会いたい」


 やっぱり。明はきっと無理をしている。

 当たり前だ、大切な祖母が亡くなったのだ。

 表面上は元気そうにしていたが辛いに決まっている。

 昨日の放課後だって授業が終わるなり人目もくれず一目散に学校を出た。

 きっと一人になりたかったのだろう。


 明の支えになりたい。少しでも悲しみを和らげてやりたい。

 その一心で真希は待ち合わせのカフェへ向かった。

 ところが。


「メールのやり方教えて」

「メール?」

「そう、メール」

「……大事な話って」

「メールのやり方」

 真希は全身の力が抜けていくのを感じた。


 ほんとこいつは。


「どのアプリ使ってるの」

「だからこのメールアプリ」

「メールにも色んなアプリがあるの。ちょっと見せて」


 真希から一通りレクチャーを受け、試しに真希へ一通送ってみた。


 ――こんにちは。はじめまして。私は汐明です。元シンガーソングライターです。


 添付されたファイルを開くとなぜかゴリラの画像だった。


「……ちゃんと届いたよ」

 真希は突っ込まなかった。明は満足げな笑みを浮かべている。


「何かちょっとほっとした」

「何が」

「思ったよりシオが元気そうだから」

「うん」

 一瞬明の顔から表情が消え、だが直ぐに笑顔が戻った。


「見栄張れる相手が目の前にいるから元気でいられる」

 真希も笑顔を返した。


「で、誰とメールするの」

「え」

「え、じゃない。相手がいるんでしょ。誰」

「えっと……ドイツ在住のダニエル・ゲーペルさん」

「誰!?」

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