お弁当 その3

 待ちに待った昼休み。

「ウッシー、今日はパンある?」

 前の席の祥子が振り向き、明に聞くと、ふふん、と得意げな顔でリュックから弁当箱を取り出してみせた。

「おっ、もしかしてお弁当? どしたん、初めてじゃん」


 海月のお母さんに作ってもらいました、と声を大にして言ってやりたい。


「ねえ、見て見て。ウッシーがお弁当持ってきてるよ」

 こちらに来た真希と咲に向って祥子が言う。

「ほんとだ。初めて見た」

「作ってもらえたんだ。良かったね」


 明の昼食は大抵パンか学食だ。

 母の奈津子は仕事で忙しく弁当を作る余裕がない。


 包みを解き、弁当の蓋を開けた。

 ゴマ塩のふられた白米。小さなハンバーグが二つ。半分にカットされたソーセージも二つ。唐揚げ二つに卵焼きも二つ。きんぴらごぼうにミニトマトは一つだけ。


「茶色率高いな!」

「何か男の弁当って感じ」

「もしかしてお父さんのお弁当と間違えたんじゃ」

 あり得る。美里の手違いにより、本来賢二に渡るはずの弁当が明の弁当と入れ替わってしまったのかもしれない。或いは。

 太鳳の席へ振り向いた。だが太鳳はいない。今日もどこか人気のない所へ行ってしまったのだろうか。


 もしかしてこれ、海月のお弁当かも。


 まあ、いいか。海月を捜すのも面倒だ。

 それにこんな美味しそうなお弁当を海月に渡したくない。

 これはもう私の物だ、とハンバーグを一口。

 やっぱり美味しかった。

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