お弁当 その2
駅に近づくにつれ、人通りも多くなってきた。
すれ違う人々の視線が明へ吸い寄せられていく。
「すげえな。皆、お前の事見てくるな」
「照れるぜい」と涼し気な顔をして明は言う。
「やっぱ声とか掛けられんの」
「掛けられるよ。あなたもしかして人間ですかって」
「どういう状況だとそんな声の掛けられ方になるんだよ」
「大体はスバルちゃんですかーって。そーでーすって」
なんて、駅のホームで話していたら見知らぬ女子高生の集団が明に近づいてきた。
「あの、もしかしてスバルちゃんですか」
「そーでーす」
そのうち来た電車に乗り込み、太鳳は明に言った。
「新宿着いたら別れようぜ。お前いつものメンツと一緒に登校すんだろ」
「マキ達の事? そうだけど、ウミツキも一緒に行けばいいじゃん」
「やだよ、気まずい。知らない女の中に放り込まれるなんてぞっとする」
「でもサキの事は知ってるんでしょ。同じ中学だって聞いた」
「高校に入ってから一度もまともに話してないよ」
「女の子と話すの苦手?」
「苦手苦手ちょー苦手」
嘘くさい。
「私とは普通に話せてるじゃん」
「お前は俺ん中で女じゃなくて変人枠にカテゴライズされたから」
「ウミツキにとって私は特別な存在って事?」
「ポジティブ~」
太鳳の言わんとする事は分かる。明とてよく知らない男子の中に放り込まれたら流石に委縮してしまう。しかし。
「マキ達と合流するまでは一緒にいようよ」
「えー、やだ。一緒にいるとこ見られるの恥ずかしい」
「小学生か」
すったもんだの挙句、太鳳は明に腕を掴まれ、連行される形で電車を降りた。
「ねぇ、この態勢一番不味いんじゃないの。これ絶対誤解されるやつじゃん」
「へーき、へーき。見られなきゃいいんだから」
真希達との待ち合わせは駅近くのコンビニだ。それまでには解放してやるつもりだった。明だって二人でいる所を真希と祥子に見られたくない。絶対冷やかされるに決まっている。
改札を抜けて直ぐだった。
「アキラちゃん?」
はっとして振り向いた。咲だった。太鳳の腕を離したがもう遅い。
「見たな」
「え?」
「見たなーっ」
明は咲に抱き着き、強引に脇腹をくすぐった。
「忘れろーっ」
二人できゃあきゃあじゃれあっているうちにいつの間にか太鳳はいなくなっていた。
咲と待ち合わせのコンビニへ向かう道中、明は太鳳と一緒にいた経緯を大雑把に説明した。
「何か、仲良くなって一緒にいた」
「そ、そうなんだ」
何も説明になってない。なぜ仲良くなったのか、なぜ太鳳の腕を取っていたのか、その理由が全く分からない。だが咲は追及しなかった。こういう雑な物言いをする時の明は深入りしてほしくない時のサインだ。
それよりも明が元気そうでほっとした。
明がおばあちゃん子だったのは真希から聞いている。明がずっと心配だった。
「サキの言う通りだった。ウミツキは私を私として見てくれる」
きっと元気なのは海月君のおかげなんだろうな、と咲は察した。
コンビニに着くと真希と祥子が待っていた。
「おはよー、ウッシー」
「おはよう」
「シオ、大丈夫? 無理してない?」
真希が心配そうに明に詰め寄る。
「大丈夫、平気」
「辛かったら言うんだよ。一人で溜め込んじゃ駄目だからね」
お母さんだなぁ、と明は思う。
勿論全く平気な訳じゃない。昨日からずっと祖母の事が頭の片隅にある。祖母の死を受け入れるにはまだ時間が掛かるだろう。
それでもこの三人と一緒にいると悲しみを忘れる事ができる。
私の日常が戻ってきた。
学校に着くと太鳳は既に教室にいた。
自分の席で頬杖を突き、眉間にしわを寄せ、目を瞑っている。
いつもの太鳳だ。眠そうというより、やはり疲れているように見えた。
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