四人分の過去 その4
晴れて高校へ進学し、期待と不安の新生活が始まった。が、開始早々出鼻を挫かれた。
モデルの昴が入学したと学校中が話題騒然となる。注目の的にされる事に慣れてはいるがモデルになってからはより一層だった。
明を一目見ようと毎日多くの人が教室へ押し寄せた。どこから聞き付けたのか下校のタイミングを見計らって他校の生徒や部外者までもが校門の前で待ち伏せている事が暫しあった。
人の波をさばききれない。まるで芸能人みたいだ、と思った。芸能人だった。
こんな時、真希がいてくれたらと思わずにいられない。真希とはクラスが別だった。
同じ学校にいるというのに全く会えない。いつも助けてくれる存在が隣にいない心細さ、久しく忘れていた孤独の寂しさ。
だが真希に助けを求める事はできない。
新入生にとって今はコミュニティを作る大切な時期だ。
真希も自分のクラスで友達を作るために頑張っている最中だ。
邪魔をしてはいけない。友達を作る難しさは身に染みて分かっている。
百人の知り合いなら簡単にできるというのに。
「本名『ウシオアキラ』? じゃ『ウッシー』って呼んでいい?」
ホームルームが始まる直前、前の席の子からいきなり声を掛けられた。
面食らった明はただ頷くばかりだった。
大抵は苗字か、名前か、モデルになってからは「昴」が殆ど。真希からは「シオ」と呼ばれているけれど「ウッシー」と呼ばれるのは初めてだった。
そこはかとなく言いにくい。
「アタシ、アズマショウコ。よろしく、ウッシー」
席が前だった事もあり祥子とはよく話した。
妙に馬が合い、簡単に打ち解けられた。
活発で明るい子だった。明を除けばクラスで一際目立っている。
クラス内で探り探りの牽制合戦が繰り広げられている中、祥子だけは誰彼構わず声を掛けていた。そして彼女の周りには絶えず笑い声が溢れている。
明に人だかりがしても祥子が角を立てずその場を収めてくれた。
コミュニケーション能力の高さが窺えた。
明は祥子を気に入った。
前向きな物の捉え方、何にでも楽しもうとする姿勢、自分と似た感性を持っている。性格は百八十度違うのに重なる部分が多い。
そして何より祥子もあの目で明を見てこない。
まさか真希以外にも友達になれる子が現れるとは思ってもみなかった。
この喜びを彼女に伝えたい。
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