四人分の過去 その2
ところがどすこい、中学生になり柳瀬真希と出会った。
初めてだった。同世代の子で唯一、真希だけはあの目を明に向けてこなかった。
この子は私と同じ目線で話してくれる。
明は真希を気に入った。運命だと思った。
この子を逃したら二度と友達ができない。絶対に逃してなるものかと四六時中真希に引っ付いて離れなかった。
実は真希も初めのうちは明を眩しく見ていた。こんな綺麗な女の子がいるのかと驚嘆した。
その美しい横顔に何度見惚れたか分からない。そんな子が私を気に入ってくれている。それが嬉しく、優越感に浸る思いだった。
だが直ぐに自分が見ていたものが幻想だったと気付く。
こいつ、結構な駄目女だ。
楽観的で忘れっぽく、随分と抜けた性格をしている。
学力は悪くないのにアホみたいな行動を取ってくる。それもおめでたい事に当の本人は自分がしっかり者だと思い込んでいる節がある。
この性分でよく今までやってこられたものだと逆に感心してしまう。が、それも直ぐに分かった。
問題が発生すると明の代わりに誰かが解決してくれていた。明が困っていると必ず誰かが助けてくれる。
その行いの裏に下心を隠している者も当然いる。だが大半の者はただ純粋に、明の力になりたいだけなのだ。
明が好かれているのは美貌だけが全てではない。
いい子なのだ。
明は心を込めて「ありがとう」を言う。誰に対しても、どんな些細な事に対しても、だ。
一見当たり前のように思える事でも、日常的に使うその言葉に心からの感謝を込めて口にする者がどれだけいるだろうか。
そんな子だから真希も力になりたいと思った。
しかし真希が他者と違うのは明自身に解決させる事だった。
今は誰かが助けてくれても、いずれ一人で困難に立ち向かわなければいけない時が必ず来る。
その時のために明を自立した人間にさせなければいけない。
真希の目に火が点いた。
私がこいつを真人間にしてみせる。
真希は明が困っていても周りに何もさせないようにした。力は貸すが最終的には明自身の力で解決させる。
明の親になったつもりなど毛頭もなかったが真希の熱心過ぎる教育姿があまりにも板につきすぎて中学時代のニックネームが「お母さん」だった。
それで呼ぶと真希が怒るので明は呼んだ事はないが、真希ならきっといいお母さんになる、と密かに思っている。
実際お母さんの教育は明のためになった。自分でやれる事は自分でやる。全てを人任せにする事はしなくなった。
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