四人分の過去 その1
明はこれまでに数多くの出会いを経験してきた。出会ってきた人の数は同世代の比ではない。
明の美貌に魅了され、ある者は友人になろうと、またある者は恋人になろうと近づいてくる。
明とお近づきになる、それだけでステータスになるからだ。自分が明と親しい間柄だと周りに誇示できる。
自分に近づいてくる人にそんな下心があると気付いたのは小学三年生の時だった。
小学生の低学年であろうとクラス内に序列は存在する。無論、明は最上位に位置していたのだが、当時の明はそんな事を全く意識していなかった。
幼い頃から自分が可愛い事を自覚していたが、自身のカリスマ性にはまだ気付いてなかった。
明の周りには自然と人が集まり、それが一大派閥となる。だが当の本人は集まってくる連中を「皆、私と仲良くしてくれるいい友達だ」くらいにしか思わなかった。
ただ、少しずつ、違和感を覚えた。
友達から媚びるような眼差しを向けられる時が多々あった。
あまり気持ちのいいものではなかった。
その目で見つめられると、どろりとした感情が流れ込んでくるような気がしてつい顔を顰めそうになる。
どうしてそんな目で私を見るのだろう。
それを訊ねてはいけないような気がして口には出せずにいた。
ただ、少しずつ、分かってきた。
私と仲良くすると得なのだ。
私はクラスで一番の存在で、私に全ての決定権がある。私に気に入られればクラス内での自分の地位が安泰する。だから誰もが私を気遣い媚びてくる。
誰も私を友達として見ていない。私には友達がいない。
国語の時間、何気なく教科書を繰っていると「こどく」の文字が目に留まりどきりとした。
まさに今の自分を表すに相応しい言葉だった。
明の周りには常に大勢の人が集まる。それなのに強く孤独を感じてしまうこのちぐはぐさ。
だが明は思った。
まあ、いいか。
だからといって今に特別不満がある訳ではない。
大体は楽しく過ごせているし、あの目だってすっかり慣れてしまった。なら、何も問題ないではないか。
ちょっぴり寂しいけれど、私は十分恵まれている。
そんな想いを抱えながら、友達ができない事を半ば諦めながら、それでも楽しい毎日だった。
これ以上何を望めというのか。友達が欲しいなんて贅沢な悩みだ。
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