汐 明 その2
程なくして電車が到着し、乗り込む寸前、真希から「あ」と漏れ聴こえた。
「クロダ先輩がいる」
言われて明も真希の視線の先を追ったが、すでに車両に乗り込んだ後らしい。
「こっちに気付いてない。電車降りたら注意しよう」
扉が閉まり、外の景色がゆっくり流れ出す。
「しっかし根に持つよなぁ。もう終わった事なのに」
うんざりしたように祥子が言う。
「始まってもなかったよ」と咲が言い継ぎ、真希も不快そうに眉を顰めた。
「トキタ先輩がまだ諦めてないんだよ」
「アキラだけに?」と明が聞くと真希は「うざ」と言った。
「でもこんな状況が続くのはよくないよ。アキラちゃん何も悪くないのに隠れて生活しないといけないなんて間違ってる」
「私は慣れてるから別にいいけど。かくれんぼ好きだし」
「理不尽な事に慣れちゃだめだよ」
すると祥子が朗らかに「ここはマキにガツン! と言ってもらいましょう」と人任せな提案をしてきた。
「何で私。別にいいけど」
「いいんかい」
「あの人嫌いなんだよ、陰湿で。電車降りたら言ってくるわ」
「流石マキ! サスマキ! 思い立ったら即行動! やっぱできる人は違うねぇ」
「私も言うよ!」
咲も乗り気になり、まずいと思った明は二人を宥める。
「いいって、いいって、お嬢さん方。そこまでしなくても。言わなきゃいけない時がきたら私が言うから」
「今がその時だ、つってんの。電車降りたら即言ってこい」
「えー」
「ああいうタイプは釘刺しとかないと後々付け上がる。シオが言わないなら私が言う」
「私も言う!」
どうする? と真希と咲が視線で問いかけてくる。
困った明がこれまた祥子へ視線を投げて助けを求めたが、祥子は肩を竦めるだけだった。
「……分かった、私が言う。けど直ぐはなし。学校遅れるし。時間作ってクロダ先輩とちゃんと話したい」
「じゃ、今日の放課後だな」
「待って、放課後は私が――」
「私が何だ、何かあるなら言ってみろ」
「な、な、何かが、きっと、私を、待っている……!」
「クロダ先輩との対話がな。電車降りたら先輩に約束取り付けてくるわ」
逃げられない、と明は観念した。久しぶりに気が滅入ってしまう。
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