汐 明 その1
「アキラちゃん、おはよー」
白金台駅のプラットホームで電車を待っていると
「おはよう」
「私一番?」
「うん、よかったね。今日いい事あるんじゃない」
「やった!」
嬉しそうにはにかむ咲を見て明も微笑む。
この子には誰よりも先に明と会えるとその日一日を幸せに過ごせるという謎の験担ぎがあるらしい。しかし咲の場合、一番でも二番でも私と会えば幸せになれるみたいだから験担ぎなど関係ないのでは? と明は思う。
暫くして
「やったじゃん、サキ。今日一番乗りじゃん」
祥子が言うと、咲は笑顔で答えた。
「うん、今日一日幸せに過ごせそう!」
真希が微苦笑を浮かべながら言った。
「あんた、シオと一緒なら幸せなんだから一番とか二番とか関係ないでしょ」
言われてる、と明は可笑しくなる。
「あ、そだ、ウッシー見て見て。めちゃカッコいい影撮れたんだ」
祥子が思い出してスマートフォンを取り出した。
「影?」
「てか、アタシのインスタとツイいい加減フォローしてよ」
「カッコよかったら検討するわ」
見れば、渋谷駅構内の写真だった。
「ほらこれ」と指差された箇所に大きな人影が映り込んでいる。
厳つくごつごつしたシルエットから甲冑のようなものを着込んでいるように見える。
真希と咲も画面を覗き込んだ。真希が「ああ」と呟く。
「昨日インスタに上げてたやつ? この影の正体って結局何だったの」
「分かんない。影の足元をずーっと辿ってったら、段々薄くなって途絶えてた」
咲が来首を傾げて言う。
「これ渋谷駅で撮ったんだっけ。あそこ、こんな影になる置物なんてあったかな」
「色んな物の影が重なって偶然こんな形になったんじゃない」
真希がそれらしい理由を付け、そんなところだろうと皆が納得した。
「ウッシー、どう? 判定は……」
「今回は縁がなかったという事で」
「何でー!」
「何か見てると不安になる」
「分かる」と真希が同意する。
「私は『イイね』入れたよ!」
「よしよし、サキは良い子だね~」
見ていると不安になる。なのに明は画面に釘付けだった。
得体の知れない恐怖がこの影に潜んでいる。今にも画面から飛び出して襲って来そうな、そんな想像を掻き立てられてしまう。
祥子がスマートフォンをポケットに仕舞い、ようやく視線を離す事ができた。
「はー、だめかぁ。まあ、アタシ史上一番反応が薄い投稿だったし」
「そんなんでシオを釣ろうとしたのか」
「だってウッシー、人と違うアンテナ張ってるから、これなら引っ掛かるかなって。ウッシーどうしたらフォローしてくれんの」
「ショーコと今生の別れになったらかな」
「なぜ!?」
「フォローしなくても今みたいに会えば見せてくれるじゃん」
「じゃあ、見せなきゃフォローしてくれんの」
「しない」
「こいつ……」
「諦めろ」と真希が言うと明が「アキラだけに?」とすかさず聞いた。
「……シオ、私のだってしてないんだから」
真希は無視した。
「でもサキのはフォローしてんじゃん」
「サキのインスタはうるさくないから」
「うるさいって何!? 画像喋らんから!!」
「ショーコとは会って話がしたい。ショーコと一緒だと楽しいから好き。だからショーコと会えなくなったらフォローする」
思いがけない明の言葉に祥子は目を瞬かせる。
「まあ、こいつ反応いいしな。話して楽しいのは同意」
「私もショウコちゃんと話すの大好き!」
「ま、まあ、そういう事なら……」
「煽てられ易くて助かる」
「おい」
「ショーコのそういうとこ好き」
「何でも『好き』って言っておけば懐柔できると思ってんのか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます