Girl meets Tao

カフェモカ

二人分の朝

 朝は得意だ。

 目覚ましが鳴ればぬくい布団からさっと出られる。

 どうしてだろうと考えた時、その一番の理由は憂鬱を感じないからだと悟った。

 これまで生きてきて苦労はしてもそれを苦労と感じた事があまりない。

 嫌な事があっても直ぐに気持ちを切り替えられるし、並大抵の事は楽しめる。

 楽観的な性格をしていると思う。だがそういう事ではない。

 顔を洗い、鏡に映る自分と目が合う。綺麗な顔をしている、とうしおあきらは我ながらに思う。憂鬱を感じない理由はこれだ。

 明が美しいから誰もが優しくしてくれる。この美貌のおかげで今まで憂鬱とは無縁の人生を送る事ができた。

 きっとこれからも。

 その日一日を楽しく過ごせると確信できるから朝を起きられるのだ。

 歯を磨き、カップのヨーグルトを一つ食べ、制服に着替え、髪を梳き、唇にリップクリームを塗り、姿見鏡で全体をチェックし、リュックを背負い、振り返らず玄関を出た。

「行ってきます」は思い出せないくらい、言ってない。



 朝は苦手だ。

 目覚ましが鳴っても布団から出られない。

 一日が始まると思うと恐くて堪らない。朝なんか永遠に来なければいい。夜眠りについたらそのまま目覚める事なくこの世を去りたい。そんな事を毎日思っている。

 いつも起き上がれずにいると母が様子を確かめに来てくれる。

 今日はどうするのかと聞かれ、学校へ行くと返した。

 母はのそのそと布団から出てくるのを確認して部屋を後にする。

 顔を洗い、鏡に映る自分と目が合う。ひどく不安そうな目がこちらを見つめ返してくる。

 歯を磨き、パンを食べ、制服に着替え、リュックを背負い、玄関で母に振り返る。

「行ってきます」と言えば「行ってらっしゃい」と返ってくる。

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