話がしたい その1
夕飯ができ、ダイニングテーブルを四人で囲った。
父親がいて、母親がいて、子供がいて、家族全員が揃って食卓を囲む光景を見るのはいつ以来だろう。
まるで初めて見たような感動を覚えてしまう。記念写真を撮ってSNSに投稿したいくらいだ。
美里が茶碗にご飯を盛りつけるさまを明はうっとりしながら見つめていた。
受け取った茶碗にはご飯がふっくらと盛られ、艶めいていた。
目の前には数々の料理が並べられており、美里は残り物のオンパレードと言っていたが明の目にはご馳走に映っていた。
「では皆さん、手を合わせてください」
子供のような声音で美里は言った。明は楽しそうに手を合わせ、男二人は怪訝な面持ちで手を合わせた。
「いただきますっ」と美里。
「いただきます」と明。
「いただきまーす……」と賢二と太鳳。
ご飯を一口、お惣菜を一口。咀嚼し、よく味わい、呑み込んだ。
「美味しい」
「ありがとう。沢山食べてね」
テーブルに並んでいる料理全てに箸を伸ばした。
どれもこれもが美味しい。こんなに美味しい料理を食べるのは久しぶりだ。
ご飯をぺろりと平らげ、お代わりを頂いた。
黙々と食べる明を太鳳は珍しそうに見ていた。
食後、明がソファーで寛いでいると風呂から上がった太鳳が戻ってきた。
「アイス食う?」
「食う」
太鳳に手招きされ、キッチンへ向かった。
冷蔵庫の冷凍室を開けると色んな種類のアイスがあった。
「お好きな物をどーぞ」
明は桃のアイスキャンディーを選び、太鳳はソーダのアイスキャンディーを選んだ。
ソファーに戻り、二人は暫し無言でアイスキャンディーに齧りついた。
「夕飯はいい食いっぷりでしたね」
太鳳が平坦な口調で言った。
「とても美味しかったから。こんな美味しいご飯を食べたのは久しぶり。私の人生でベストスリーに入るくらいの美味しさだった」
「そりゃ、ようござんして」
大袈裟な。しかしなぜだろう、お世辞を言っているようにも見えない。
美里が言っていた通り、夕飯には残り物やスーパーのお惣菜、ごく一般的な家庭の料理がテーブルに並んでいただけだ。
正直、そこまで絶賛される程の料理ではない。
明なら芸能人御用達の一流レストランの料理を日常的に食べてそうなイメージがある。
勿論、母の料理を喜んでもらえたのは嬉しい。が、何か違和感を覚えてしまう。
「おかげでちょっと元気出た」
明は寂しそうに笑った。
「いいおばあちゃんだったの?」
明は頷く。
「ウミツキのおばあちゃんは元気?」
「え、ああ、どうだろう。父方の方はもう亡くなってるけど、母方の方は元気……なんじゃないかな。秋田にいるから暫く会えてないけど」
「そっか」
会話を埋めるようにアイスキャンディーに噛りついた。
「ウミツキの部屋は」
太鳳は上を指す。
「行ってみたい」
「俺の部屋……」
太鳳は気乗りしない声で呟いた。
「駄目?」
「駄目じゃないけど……」
「えっちな本があるの?」
太鳳は苦笑した。
「残念ながらえっちな本すらない。行ってみたら分かるけど直ぐ引き返す事になるよ」
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