話がしたい その2
アイスキャンディーを食べた後、二人は二階の太鳳の自室へ向かった。
明は少しワクワクしていた。男の子の部屋ってどんなだろう。
階段を上り、一番奥の部屋のドアを太鳳は開けた。
明は中を覗き、息を呑んだ。
八畳ほどの角部屋。窓が一つ。ベッド、机、椅子、クローゼット。制服とリュックが掛けられたコートハンガー。
視界に入るのはそれだけだった。
テレビだったり、ゲーム機だったり、マンガだったり、タブレットだったり、およそ子どもの部屋にありそうな物が何一つない。
生活感のない、寝て泊まるだけの部屋。この空虚な空間を明はよく知っている。
「何もないでしょ」
「断捨離?」
「まあ、そんなとこ」
明は足を踏み入れた。奥へ進み、改めて部屋を眺めた。
「座ってもいい?」
ベッドを指す。太鳳は小さく二度頷いた。
「ウミツキも座って。ここでお話しよ」
太鳳は躊躇いながらも背もたれを前にして椅子に座った。
「今からいくつか質問します。真摯にお答えください」
「はあ」
「お名前は」「……ウミツキタオです」
「年齢は」「十六」
「血液型は」「O型」
「誕生日は」「八月五日」
「身長は」「一七六」
「体重」「六十二」
「足のサイズ」「二十七」
「家族構成を教えてください」「父と母、私の三人です」
「好きな食べ物は何ですか」「お母さんの作った餃子」
「いいなぁ、私も食べてみたい。趣味は何ですか」「ありません」
「将来の夢は」「ありません」
「最近楽しかった事は」「ありません」
「最近悲しかった事は」「言いたくないです」
「最近嬉しかった事は」「ありません」
「なるほど、結構です。次はあなたが私に質問をしてください」
「え」
「何でもお答えしますよ」
「じゃあ……名前を教えてください」「ウシオアキラです」
「年齢は」「十六歳です」
「血液型は」「AB型です」
「誕生日は」「秘密です」
「身長は」「秘密です」
「体重は」「女の子に体重を聞くのは失礼だと思います」
何だろう、確かにその通りなのだが、明がさっきした質問をそのまま考えなしに流用した太鳳が迂闊だったのだが、今一釈然としない。
「……家族構成を教えてください」「プライバシーに関わる事はお答えできません」
「好きな食べ物」「パン」
「趣味」「友達と一緒に遊ぶ事です」
「将来の夢は」「考え中です」
「最近……楽しかった事」「友達と遊んだ事です」
「最近嬉しかった事」
「ウミツキタオ君が助けてくれた事です」
明は真っ直ぐ太鳳を見つめて言った。太鳳の表情は変わらない。
「質問は以上です」
「もう終わり? もっと質問してよ」
「あなたさぁ、何でも答えるつって全然答えないじゃん」
「ウミツキだって最後らへんの質問答えなかったじゃん」
「俺のは答えなかったんじゃなくて『ない』の」
「じゃあ、質問の内容が悪かった。良い質問だったら答えられる」
「良い質問って何だよ」
「例えばー……、私のお気に入りのパン屋さんは何でしょう、とか」
「知らねーし! そもそもそれ質問じゃなくてクイズじゃん!」
明は笑った。
「お前って話してみると大分イメージ違うな」
「よく言われる。話してみると結構普通でしょ」
「お前、自分の事普通だと思ってんの?」
それからも話は続いた。
中間テストどうだった。余裕の赤点、英語以外は。
英語得意なの。そうでもない。
明は楽しかった。男の子との会話がこんなに楽しいと思うのは初めてだった。
咲の言っていた通りかもしれない。
太鳳は立場や肩書で人を量るような人ではない。
その証拠に太鳳もあの目で明を見てこない。目の前の相手が明だからと特別扱いする事なくごく自然体で接してくる。
明は太鳳を気に入り始めていた。太鳳とは仲良くなれる気がする。
しかし男の子からそういう目で見られないというのも何だかちょっぴり悔しい。こんな風に思うのも初めてだった。
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