第7話 その商品は陰キャにはいらないものだった

「え、も、もう撮るの?」


高校生になれば、放課後はアルバイトに毎日励んだり、


やたら権力が強い生徒会に入ってドタバタしたスクール


ライフを送れるものだと思っていたのは、何年前だった


んだろう。実際はそもそもアルバイト面接に受からな


い、生徒会に立候補するには推薦生徒と推薦教師が2必要


であるという現実に悲嘆に暮れた日を覚えている。


「大丈夫だよ!気楽に撮影しよ!普段通り!」


彼女の加速度的に進む段取りは、今日も絶好調だ。


ただ、少し寝不足っぽそうな顔な気がしなくもない。


淡いピンクのカーテンで閉め切っており、今日本当に


撮影するのだと認識する。


「よしよし。準備できた!これで~・・・」


小型のスマホに三脚をセットして、完全に準備は整っている様子である。


「じゃあそろそろいくよー!まず始まりはリンちゃんの挨拶から!


主役だからいい笑顔!頼むよー!」


人差し指を頬に当て、微笑を浮かべる。


「それと、少し軽く自己紹介!おねがいね!

そこまででとりあえずカット!」


私のように全く空白ではなく、ある程度"動画"の段取りを既に考えているようだっ


た。今後、もし涼香ちゃんが手伝ってくれなくなったらどうしよう。


あまりにも心細すぎてフェードアウトしてしまう・・・かも。


ってそれどころじゃない。えーと・・・どうしよう。何を言えば・・・。


「ではいくよーー!さん、に、いち、スタート!!」


涼香が三脚の奥で深呼吸するように、促している。


吸ってー、吐いてーー・・・よし!やってみよう!!


「こ、こ、こ、こんにちは!!

リンチャンネルへようこそ!


私の名前は"リン"です!

ふ、ふだんは誰とも話せず、ネットの世界だけで生きてました。

そんな私ですが、、ぜひ楽しんでいってください!!」


ぱぁぁぁん!!


「ぎゃゃゃや!!!!」


その音にとてつもなくビックリした!


カメラの奥で涼香がクラッカーを割っていたのだ。


様々な色のビニールテープが私を包み込む。


「え、えーと!それと!」


彼女と目と目が合う。


彼女が、日々忙しいのは一日見ていればわかる。


本当は、チャンネルを作ってもらって、定期的に私が上げる動画に


アドバイスをしてもらう予定だった。でも、今の私はそんな第三者的な


存在よりも隣で一緒に明るく、笑っている友人が欲しい気持ちがどんどん


込み上げてきた。


(私は涼香ちゃんと一緒にやりたい!!!)


「彼女が私の相方の涼香ちゃんです!


こ、これから二人で色んな企画をやっていきたいと思います!」


「!!」


彼女はやや驚いた表情をしていたが、すぐにクラッカーを置き、


「やっほー!こんにちは!

リンちゃんの相方のスズカです!」


颯爽と私の隣にきて、天真爛漫に挨拶をする。


陽キャの人は、どうしてこんなにも柔軟かつ迅速に対応ができるのだろう。


すぐに周りは彼女のオーラで満たされていく。


「これから色々なことにチャレンジしていくから、


ぜひチャンネル登録・高評価よろしくお願いします!」


彼女がお辞儀をしたので、私も慌ててお辞儀をする。


「さて!リンちゃん!さっそくチャンネル設立したし、


私が記念すべき企画を考えてきました!」


パッと手を叩き、閑話休題。


企画の話となった途端ニコニコと笑顔を浮かべているが、何やら危ないオーラを感じる。


私も彼女と同じく、パチパチパチと拍手をしてみるが、脳裏ではブラックボックス

の企画に不安がよぎる。


「さて!その企画なのですが・・・。

まずは、こちらの商品をどうぞ!」


机の上には見たことがあるロゴがついた小さい箱がある。


「え、な、なにこれ。」


「リンちゃん開けてみて!」


このロゴのブランドはPC・スマートフォンなどの精密機


器を扱っており、カフェを覗けばそのPCを開いて作業を


している人が必ずといっていいほどいる。


「こ、これは・・・。」


カメラが回っていることも頭にのこって


そう。これは陰キャには絶対使わないと思っていた


商品だったのだ。


「スマート・・うぉっち?」


初めて発したその単語。脳内辞書で消えかけていた言葉


を引っ張り出した。


「そう!そしてリンちゃんが挑んでもらう企画は・・・!!」


涼香がピンクのカーテンをバっと開くと黄色の大きい球


が隠されていた。その球の下に引っ張れそうなヒモがつ


いている。そしてくるっと翻ってそれを思いっきり


引っ張ったのだった。


ぱぁぁぁん!!とくす玉の中に入っていたクラッカーも割れ、


様々な色のビニールテープが放たれる。


さらに、様々な色彩の折り紙で折られた花が舞っていた。


その紙には『JK クォーターマラソン1週間チャレンジ!!』


と書かれていた。


え、あれ。私の目がおかしくなった?


「今週発売されたこのスマートウォッチをデビューするために!!


来週のクォーターマラソンに2人!参加します!」


「ゑ」


日常的に使わない「え」がでてきてしまうほど頭がパニックになっていた。


あれ。もしかして、私が組んだ相手って、


ちょっと頭がやばめな人だった??


「一週間は私達のトレーニング動画を提供します!!


みんな期待してまっててね!!」


初企画の話はさらっと流れて、なんか動画の締めになってきているような。


「え」


「じゃあ最後にリンちゃん!!


視聴者の皆に一言!!」


綺麗にバトンは渡され、ふと気が付くと私のターンになっていた。

何かを喋らなきゃ。涼香がテンポよく繋げてくれたんだ。



「え、え、ええーと!!学校では普段は誰ともしゃべれず、

陰キャがコンプレックスです、、けどネットでは頑張ってそのか、殻を破って陽キャになりたいと思います!!応援よろしくお願いします!!」


誠心誠意自分の心からでた欲望が露呈してしまったが、それが私の願望だった。


「よっしゃリンちゃん!じゃ!今週からがんばっていこおおおおお!!!」


「お、おぉーーーーー!!!」


彼女の掲げた腕は、どこまでもとどくような、誰にも負けないような力強さが表れていた。

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