第5話 陽キャと陰キャの違い分析論

「じゃん!どうどう?個人的にはリンちゃんっぽさを上手く描けてると思うんだけど!」


ネットと現実ともに連絡を取る人もいない陰の世界の住民こと"紅月 凛"


はなぜか反対の世界に属している"琴峯 涼香"のお宅に二日連続でお邪魔していた。


「え。。。なにこれ、すごすぎる・・・」


彼女のディスプレイに表示されているその似顔絵は、


かなり独特な絵で、教科書で見た"水墨画"のようなイラストだ。



まずペンタブレットが引き出しから出たことに衝撃を受けたが、


このイラストは明らかに初心者ではない。


(涼香ちゃんっていったい・・・)


「いやいや~結構大変だったよ!


特にこの顔の振り向きとおさげね!なかなか描くの難しかったけど・・・どうどう??」


マウスカーソルがぐるぐると回転するその部分はかなりの線で構成されていた。


「こ、これ本当に昨日仕上げたの?」


その出来はもはや常人とは呼べないようなクオリティだったのだ。


「うんうん!そうだよ!久々にペンタブレットなんて使ったから


大変だったんだよこれが!」


ペンを華麗に回しながら、得意気な顔をする。


「って私は別にいいの!リンちゃんどんな動物かけた?」


「う、うん!こんな感じなんだけどどうかな?」


クリアファイルから取り出したのは、一時期ネットで流行っていた動物だった。


「これは・・・もしかしてシマエナガ?」


「うん。。あんま複雑なものは描けなかったから、下手だけど。。」


「いいじゃん!このリンちゃんとシマエナガ!!


最高によく似合ってると思う!」


よし!決まり!これは良い画になりそうだぞ~!」


意外なほどに、自分の作品を受け入れて話が進んでいく。


こんな私の絵でも褒めてくれる人がいる・・・。


「こ、これで大丈夫?私、ペンタブレット使えないんだけど・・・」


シャーペン・ボールペンを使っても今まで酷い評価だった私が、ペンタブレットなんて


とてもじゃないが扱い切れないことは目に見えていた。


「だーーいじょうぶ!あとはこれをスキャンして、私が


ちょちょちょいーってやれば、すぐ完成するよ!」


涼香のその自信に溢れた表情や言葉には、こんな自分でもいいんだという


謎の自己肯定感が湧いてきてしまう。


「自分で作ってみてどうだった?楽しかった?」


その問いはなんて答えればいいのか、少し悩んだが


「うん。楽しかった・・・かな。


シマエナガすごい好きだから、紙にいっぱい描いても苦にならないというか、、、」


自分の思いを打ち明ける。


「でしょ??今の時代、調べたら完璧なもの

なんていくらでもゲットできるじゃん?」


「でも、自分なりに努力して、一つのものを完成させるってこともすごい大

切だと思う、、かな。」


その言葉を発した涼香の憐憫の眼差しに私の心は揺らいでいた。


「じゃあさっそく最初の動画を投稿する準備をしなくちゃね!」


ペンタブを机に展開し、私のルーズリーフを横に置く。


「え、も、もう投稿なの?

私なにも企画がない。。けど。」


「おけ!じゃあとりあえず、企画を考えよう!


私がこのアイコン完成させるから、企画を出すだけだそう!


このホワイトボードにバーってやりたいこと書き足してみよ!


私はその間にこのシマエナガをうまく落とし込むよーー!」


彼女が制服の袖をまくり、とても快活な表情をしている。


「そ、そうだね。頑張っていろいろ考えてみる。」


渡されたのは昨日、彼女が持っていたホワイトボードだった。


それは両面が記入できるタイプとなっており、背面には昨日のアイコンのデザイン


案、そしてアイコンに使用するサイズの規格など細かい情報がたくさん記入されてい

た。


・髪型はおさげを強調(あどけなさ・少女)

・大人っぽさは目を強調

・クールさは口元

・マスコットキャラクターのスペースは1/3程度?

・服装はカジュアルよりはフォーマル(コート予定)



あまりにも早く作業に取り掛かる彼女の後ろ姿を見てつい自分と比較してしまう。


私は、正直に告白したい。


陽キャ/陰キャという括りなんてものは、顔の良さや声の大きさ、スポーツが上手い


などという部分で差が生じ、結果的にそれが友人の数などに直結するのかと


思っていた。だが、違うのだ。それは彼女を見ていて思い知らされた。


前線に出て、様々な人と仲良くしている人であろうとキッカケがなければ長期的な付


き合いにならない。この場合、自身のタスクを処理することはもちろん、他人の


タスクにも干渉できる能力・存在になることがそのキッカケを作るうえで十分条件と


言える。


要は、それだけ多くのタスクをこなせる器用さ・スピードを人に対して無償で提供で


きているのだ。私が一人、休憩時間中に机に寝ている時間などにおいても。


自分が情けなく思えてくる。


今できることを私は全力でやるんだ・・・!


そう思って私はホワイトボードに書いていくのだった。


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