因果応報の続き

1

 新鋭地しんえいちという山奥の街がある。

 西南中央駅から電車で40分にある街で、古い町並みが軒を連ねる。

 その新鋭地駅からさらに10分にある山に大きな工場がある。

 浅沼あさぬま工場という大きな紡績ものを取り扱う会社。

 地元では就職したい企業ランキング上位常連だ。

 

「なーんで、こんなことしないといけないの!」

 

 結花はオフィスの廊下で、モップ片手にブツブツ文句言う。

 社名入りの青い作業服に呉松とばっちり胸元にオレンジ色で刺繍されている。

 まるで罪人のような扱いされているみたいだ。

 結花は廊下の壁にもたれてため息をついた。


「呉松さん! サボってないで手を動かしてください!」

 強い口調で叱責する女性の声。

 髪を一つにまとめて、赤い色のスクエアめがねかけた女性――丸岡まるおかというおばちゃんだ。

 結花の教育係として任命された。

 丸岡の注意を無視して、結花は廊下に座り込んだ。


 ほんとマジやってらんねー。

 なんで世界一可愛いゆいちゃんが、こんな汚れ仕事なんてしないといけないの?

 しかもこの丸岡というババア、年増の癖にいちいちうるせーな。


「天下の呉松家のお嬢様であるゆいちゃんに、あれこれいうなんて、百万年はえーんだよ。ばーか」

 教育係に悪態をついて、ポケットからスマホを取り出そうとしたが、すぐに戻した。

 

 そうだ、あのクソ兄に無理矢理機種変させられたんだった。


 良輔に山奥に捨てられた後、ほらほら歩いている姿を不審に思った人が声をかけて、警察に通報されてしまった。

 そこで結花に転売の件で捜査対象になっていたので、警察のお世話になってしまった。

 そして罰金100万の判決。

 当然財力がないので、労役場ろうえきじょう留置になってしまった。約半年間ぐらい否応なしに働くことになった上、"前科"がついてしまった。


 身元引き取りとして良輔に連絡が来たが拒否。

 

 家もない、お金もない、唯一あるのはスマホだけだが、良輔が追い出す前に最低限の機能しかないものに変えさせた。

 ニュースや天気予報、メッセージアプリぐらいで、小学生並みのフィルタリング機能に制限されている。

 家族は結花から連絡しても無視し続けている。

 

 労役が終わっても、家がないので、新鋭地駅近くのネカフェで寝泊まりしていた。それも底がつきて、本格的にホームレス状態になってしまった。

 2月の寒い中駅で結花が駅で寝起きしている姿は、すぐに有名になってしまった。

 この頃から春休みということもあり、若いやんちゃな高校生や大学生が面白おかしく結花をからかいはじめた。

 支援してあげようかと声かけたのが始まりだ。

 身の上話を聞いて結花の心を開かせる。

 結花としても若い子に話しかけられ、有頂天になっていた。

 3月に入った頃「食べ物を買ってあげる」とコンビニに連れて行って、会計前に結花を置き去りにしてしまった。

 その姿を動画で配信していた。

 彼らは「結花の身の上話聞いていたら、調子に乗ってきてうざくなったので、からかった」「痛いアラフォーオバさんの生活を観察するのが楽しかった」と。

 案の定動画は炎上、テレビでも取り上げられた。

 動画配信していた人達の中には女性も含まれていた。

 関わった人達の名前がすぐさま特定され、今度は彼らがネット上の嫌がらせのターゲットになっている。


 この一件から、結花は公的支援につながり、この春から浅沼工場で働くことになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る