第12話 憧れの過去
不動は古島コーチの話を聞いていた。
『不動、お前はいまの自分の力が1軍で通用すると思うか?』『………………………』
『そうだろ?ただ、前の名古屋戦見事なピッチングだった。あれだけの球数を投げて2失点、十分及第点だろう。ただ、お前も少し心残りがあるところがあるんじゃないか?』
不動は自分の内容を振り返った。
『はい、坂上に2打席連続でホームランを打たれたことです。1本目は空振りを狙った高めのストレートをバックスクリーンに、そして2本目はフロントドアのシュートをライト方向へ流されてホームランにされました。』
『そうだな。たしかに坂上に2本ホームランを打たれたのは残念だった。しかし、あの後すぐに持ち直したのは見事だった。前の試合のお前だったらメッタ打ちにされてそのままノックアウトされていただろう。そこが今までのお前と違うところだ。ただ、1軍に行くと坂上と同じ、いやそれ以上かもしれないはっきり言って化け物みたいな選手がウヨウヨいるんだ。その中にお前が混ざって打ち取れると思うか?』『……………………………』
不動は黙り込んでしまった。
『お前はまだまだ若い、常勝軍団ホエールズのエースとなる存在なんだ。だから早く1軍で投げて体を壊して短命に終わるのだけは俺も監督も、いや首脳陣全員が望んでいないんだ。そういえば、お前の憧れの選手は橋本監督だったか?』『はい、そうです。』不動は夢中になって話を聞いていた。
『俺はあいつといつもバッテリーを組んでいたんだが、あいつもお前と同じく育成入団からプロの世界に入った、最初は昔のお前の同じく2軍ですらメッタウチに会うほどだった。当時俺は2軍のレギュラーメンバーくらいの立ち位置だったんだが、あいつは試合が終わるたびに1人ロッカールームで涙を流していた。ある時、俺がトレーニングをしている時『ちょっといいかな?』って橋本が声をかけてきたんだ。『ちょっとボールを受けて欲しいんだ。』ってあいつが言ってきて、あいつのボールを少し受けたんだが、あいつのボールは何かが違った。うまくは表せないんだが、球質が他のやつとは違ったんだ。俺もU18日本代表に選ばれた身だったからいろんなすごい投手の球を受けてきた。だか、あいつの球だけは別格だったんだ。もちろんあいつの野球センスもあったと思う。だか、あいつは『努力の虫』だったんだ。どんなに疲れていても、どんなに相手を抑えることができたってあいつは努力を惜しまなかった。
その結果支配下登録を承認してもらって、
まぁ、後はお前の知っている通りだ。』
『……………………………』
『お前の姿を見ていると、まるで昔のあいつの姿が重なるんだ。だから遅くたっていい。ゆっくり力をつけていけ。そうすれば最終的に大成するさ。頑張れよ』『………はい!』
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