第10話 吉報と励まし

その後、不動の後を受け継いだブルペン陣が見事名古屋打線の火消しに成功。そして、9回裏には4番のサヨナラホームランで幕を閉じた。試合後、不動はホッとしていた。『なんとか抑えられてよかった。これでチームが負けていたら俺が1番の戦犯になってしまう。ブルペン陣にも感謝したい。』不動はそんなことを思っていた。 


不動が先発で投げた日から数日が経った。

また、いつものようにトレーニング用のジャージに着替え、トレーニング場に向かおうとしていた時だった。【prrrrrrrr……】突然不動のスマホが音を立ててなった。着信主を確認すると『高濱監督』と書かれていた。『なんだ?急に電話なんて。』『もしもし?不動です。』『ああ、もしもし不動か?急で悪いんだが、監督室にきてくれないか?そのままの格好で構わない。』『はい、わかりました。』【プツッ】『本当になんだ?全くわからない急に呼ぶなんて……まぁとりあえず行ってみるか。』不動はトレーニング用具を片付け

監督室へ向かった。


【トントン】『失礼します。不動です。』

『ああ、入ってくれたまえ。』【ガチャ】

『失礼します。』『こっちにきてくれ。』

『えっ……』不動は驚いた。『は、は、橋本監督じゃないですか。な、なんでここにいるんですか!?』そこには橋本監督がそこに座っていたのだ。『ああ、久しぶりだね。不動くん。まあまあ、とりあえずそこに座ってくれ。』『は、はい。し、し、失礼します。』

 不動は橋本監督の目の前に座った。

『さて、急に呼んですまなかったね、不動、お前を支配下登録に変更する。』『は?え?』あまりに急激な展開に不動は状況が理解できなかった。『お前を支配下登録にする。』『えっ、ありがとうございます!でも、なんでですか?前回の名古屋戦で俺は打たれたじゃないですか?そんなに打たれてるやつを【支配下登録】にしてくれるんですか?

『不動、お前は俺がどんなところで選手を選んでいるかわかるか?』『いえ、わかりません。』すると橋本監督は落ち着いた声でこう言った。『たしかに、野球選手としての能力ももちろん見てる、どんだけ人が良くてもここは弱肉強食の世界。それをやっていたら下でくすぶってる奴らからも不満が出るさ。だか、俺が1番見ているのは、【その人がちゃんと努力をしているか】を1番に見ているんだ。努力をしていない人間が上に上がれるわけがない。俺はそんな人間を幾度となく見てきた。だから、俺はそこを1番に見ているんだ。

あと、お前坂上に2本ホームランを打たれたって言っていただろ?俺も高濱からビデオを見たんだが確かに1本目は完璧に捉えられていた。ただ、2本目に打たれたのを見る限り、フェンスギリギリでもし風が逆風だったら入らなかっただろう。そこでお前は進化しているんだ。だから俺は支配下登録を決断したんだ。』『あり、がと、、うごさい、、ます、、、』不動は今までの人生で1番泣いた。その中で不動は言葉を絞り出し、『これからはチームのエースとなれるように不動鳥勝、頑張っていきます!』『おう、頑張れ。』こうして正式に不動の本当のプロ人生が始まったのである。



火消し→プロ野球において前のピッチャーが残したランナーを一人も返さずに抑えること。


サヨナラホームラン→

9回、10回、11回、12回のそれぞれ裏において、そのホームランで試合が終わるホームランのことを指す。

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