第9話 本当の悪夢と光

『カーン!』打球はライト方向へ飛び、

ライトはこちらを向いている。『よしっ、今度は打ち取った。』不動は確信していた。しかし………『えっ』止まっていたはずのライトが突然フェンスに向かって走り出したのだ。そしてそのままフェンスに張り付いた。

『おいおいおい………』不動は、『まさか……』と思った。『ドンッ』不動の嫌な予感は的中してしまった。

なんとボールはライトの頭上を通過し、フェンスギリギリでスタンドに着弾した。不動はグランドスラムを坂上から喰らったのだ。『おいおい、マジで言ってんのか?坂上のやつ打ったというよりは当てたって方が正しいじゃねぇか……それなのにあいつホームランを打ちやがった………』

その時、高濱監督がベンチから出てきた。

『ピッチャー交代で………』という言葉を言っていそうな口の動きだった。監督は、不動の元に向かい『お疲れ様、あとはブルペン陣に任せる。』不動は黙ってベンチに向かった。


『チクショウ、なんであいつに打たれるんだ……これじゃあ、あの決勝戦と同じじゃねぇか………』不動は絶望していた、目頭に涙を溜めながら………『おい、不動。』不動は上を向いた。そこにいたのは高濱監督だった。『まずは………お疲れ様、今日の自分の出来はどうだった?』監督は不動に聞いた。

『いや、正直全然ダメでした。前回も情けないほどにボコボコにメッタ打ちにされて、今回も坂上に2打席連続でホームランを打たれて……もう、ピッチャーとしてプロで生きていけるか本当にわかんなくなっちゃいました。』不動は涙袋を作りながら人目を憚らず泣いた。

すると監督は、不動に向かってこう言った。『いや、俺はそこまで悪い内容ではなかったと思うぞ。6回まで投げて打たれたヒットは6、ホームランは2、確かに1軍にいるピッチャーに比べたらまだまだかも知れない。

だが、よく考えてみろ。ホームランを打ったのは誰だ?』不動は答えた。『坂上です。』

『そうだろ?考え方を変えてみろ。坂上に2本中2本ホームランを打たれてんだ。ただ、他の奴らには打たれてない。ということはだ、あと坂上を打ち取れるだけの力があれば、名古屋打線を抑え込むことができたってことじゃないか?それに、坂上に打たれたあの2本目のホームランはフェンスギリギリだった。完璧に捉えられた訳ではなかっただろ?あと、打たれたヒットは坂上の前に打たれた3連打以外は直接関わってないだろ?てことは、あと少しで名古屋打線を打ち取れたんや。お前はここで終わる投手なのか?俺はお前にはもっと隠れたポテンシャルがあるって信じてる。まだまだ乗り越えなきゃいけない壁があるって考えたらまだまだ発展途上や、頑張れ。』不動は下を向いていた。

『あり、、がとう、、、ござい、、、ま、、す。』不動は人の目を考えず、号泣していた。

『よし、あとはブルペン陣に任せて応援に徹しろ!!』『……はい!』



ライト→

野球における守備位置の一つ。バッターから見て右側にいる。足が早く、肩の強い選手が守ることが多い。


グランドスラム→

満塁本塁打、満塁ホームランともいう。

1塁、2塁、3塁全て埋まった状態で打ったホームランのこと。自チームに4点が入る。


ブルペン陣→

試合の途中から投げるリリーフピッチャーの総称。


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