第6話 思わぬ再会

 そうして迎えた、名古屋ブレイブサンダース戦、不動はひどく緊張していた。『久しぶりの実戦登板だ。ここで結果を出さないと、またコーチ陣の期待を裏切ることになってしまう。それだけは避けなきゃダメだ。』不動は試合前こんなことを考えていた。『不動、久しぶりやな。』聞き馴染みのある声が聞こえた。振り返ってみると、そこにいたのは

、手嶋先輩だったのだ。

『えっ、手嶋先輩!!何でここに!?』

不動はひどく驚いた。『手嶋先輩って大学に進んで、大洋大学のエースになって、今日大学リーグの決勝戦じゃなかったんですか!?』

『あぁ、それな、監督に『後輩が今プロの世界でもがいてるんです。そいつにどうしても声かけてきたいんですよ。プレイボールまでには戻ってくるんで、行ってもいいっすか?』って頼み込んだんだよ。そしたら『わかった。お前が後輩を思う気持ちは人一倍なのは俺が1番知ってる。その後輩を勇気付けてきてやれ』って。だから今ここにいるのさ。』『…………………ありがとう、、ございます………』不動の目は赤く腫れていた。『で、本題なんだが、あまり気負いすぎ無い方がいいぞ。ぶっちゃけ仮に今日の試合でうまく首脳陣にアピールできて1軍に行ったとしても、これからたくさんの壁に当たる。その度に一喜一憂して時間をとられる方が、時間の無駄じゃないか?だったら打たれたら打たれたでしょうがないって割り切って次の打者を抑えた方がいいと思うぞ。俺も高校の時も大学の時も、相手打線を完全に抑え込んだことなんて指で数えるぐらいしかない。むしろボッコボコに打たれた回数なんて数えきれないほどある。でも”あの人”に『打たれたって次のバッター、次の打たれたやつの打席で打ち取ればいい。』って言う言葉をかけられてから

完全に吹っ切れたよな。もう、悩んでたが勿体無いって。』不動は夢中になって聞いていた。『手嶋先輩って挫折したことあったんですね。僕の中では『全てが完璧な投手』ってイメージだったんでそんなことがあったなんて想像できなかったです。』『馬鹿野郎、俺なんか挫折ばっかさ、【むしろこの地球上で1番挫折してんじゃないか】ってレベルで挫折しまくってるわ。』『気になってたんですけど、その言葉を教えてくれた人って誰なんですか?』不動は思い切って聞いてみた。『それはだn……やっべ、もうそろそろ球場戻らなきゃ、じゃっ、頑張れよ、不動!!』『はい!!』もう、不動には迷いは無くなっていた。『あいつ、変わってなくてよかったな。俺よりももっといい投手になるな。』

手嶋はそう思った。


注 

プレイボール

→野球が始まること 


首脳陣

→監督、コーチたちを含めた総称のこと

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る