第4話 俺には無かったもの
古島の金言をもらった後、彼は一心不乱に古島のミットをめがけボールを投げ続けた。
その努力を高濱芳樹(たかはまよしき)2軍監督に認められ、2軍戦での登板の機会をもらえた。しかし、どんだけボールを投げても打たれる。打たれる。打たれる。3回までに9点取られる始末になってしまった。しかし、高濱監督はベンチから出てこない。「こんなにボロボロに打たれてる俺を代えないなんて監督は何を考えているのか。このまま投げてもメッタ打ちだけじゃないか。」そう考えていた。結局5回まで投げて球数は105球、
打たれたヒットは20、ら失点は18に上った。
試合後、不動は監督室に呼ばれた。
不動は監督室に入ると応接間に入れられ
高濱監督の目の前に座った。
「不動、お前にとって今日のマウンドはどうだった?」
唐突な質問に不動は少し行き詰まった。
「正直、辛かったです。自分の自慢のボールが全然、通用しなくって........」
不動は、弱々しくそう答えた。
「俺が何故お前を変えなかったのかわかるか?もちろん、コーチからも反発があった。
「あんなに打たれて、彼のメンタルもボロボロなのに何故変えないんだ。このまま投げ続けていたら、彼は立ち直れなくなってしまう。しかも、他に自分のアピールチャンスはまだかと、虎視眈々と狙っている選手も沢山いる。その人たちにはどう説明をつけるんだ。」ってな。それでも俺はお前を変えなかった。理由はな、お前には光るものを感じたんだ。今はまだ遠く及ばないが、いつかこの川崎海堂ホエールズという常勝軍団を支えていくエースになる才能をお前は秘めているんだ。ただ、お前はプライドが高すぎる。いつまでもこのまま投げ続けて抑えられるなんて傲慢な気持ちでいてはダメだ。どんな良い投手だって、いつか打たれる時が来る。おその時自分の欠点を見つけ、克服しまた、打者を抑えられるようになる。俺も昔はお前と同じような感じだった。プライドが高かったんだ。ただ、打たれて打たれてその時に、プライドが高いままじゃダメだ、って気づけたんだ。いつかお前はエースピッチャーになる。そう俺は確信している。
それは2軍のコーチ陣みんなが思っていることなんだ。この期待に応えてくれ。」
不動はゆっくりと頷いた。そして、彼の目頭は熱くなっていた。「そうか、俺に足りないものはこれだったのか。そして、橋本選手や手嶋先輩や薄井にあって、俺にはないものはこれだったのか。」不動は自分の中で納得した。「このままじゃダメだ。このままじゃエースになれない。」そう酷く感じたのだった。
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