第5話 赤ペン
俺たちは談笑する暇もなく食べて、お菓子も好きに食べて、感想もなく、
慣れ親しんだ阿吽の呼吸を元に一緒に部屋へ戻る。
「マジでいいわ、美味しいわ、ここ」
「だなー。外真っ暗だわ」
俺が鍵の開閉をして、隼人が先に入り窓まで行って手早くカーテンを閉めるという
心地よいテンポが出来ていた。
一緒に机を囲んで座布団に座ると、さっき買った缶をそれぞれに開ける。
「でさー、明日はつり橋渡って滝見てさ、昼食べるでしょ」
「ちょっと待った。俺地図持ってきたから」
俺がリュックサックからプリントアウトされた地図を取り出すと隼人が笑う。
「このご時世に紙の地図が出てきた」
「電気喰わなくていいんだよ~、知らないの?
ほら赤ペンもある~」
「マジか」
隼人の楽しそうな声にかぶるようにミシミシッと天井が鳴って埃が降ってきた。
俺たちは引きつった顔で息を詰めて天井を見たがそれ以上は何事もなく、
時間が過ぎた。
「なー、寝るか?」
「寝られないよ、俺」
「いや、でも明日出かけるしちゃんと休まないとさ」
「さっきのさ、“お”だろ。あいつだろきっと。俺寝られないよ」
「いやいや~、ここそういうの載ってなかったんだけど」
「だって俺無理!」
そんな時、木の箪笥がピシッと鳴った。
「まあいいわ、俺が布団だけ敷いておくから」
「待った。押し入れとか怖い」
「はい、はーい。怖いね、もうテーブル端に寄せて座布団枕で、これ室温ね、
上げておくからこれで適当に休もう。
朝飯外に食いに行くことにするから、大丈夫だから。よし、お疲れ」
「お疲れ」
不安な夜は更けて去っていった。
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