第3話 君に胸キュン

中庭へ続く出入り口に辿り着くと

古びた下駄箱から木のサンダルを出して履き替える。


ここへ着くまでの間に障子が鳴ったり、電気が瞬いたり、

誰もいない廊下の先からすっと抜けるような声のようなものが聞こえたり

恐ろしいことがたくさんあった、恐ろしいことがたくさんあった結果的に俺は

隼人の羽織をほんのちょびっとだけ掴んでいる。


茶色い木の扉についた銀色の古臭いドアノブを回して中庭に先に出た隼人が

俺の手を自分の羽織から引き離して振り返る

何も言わずにパーを差し出してくるので俺は羽織のポケットから小銭入れを出した。

すると眉間に皺を寄せた隼人に小銭入れはポケットに戻され、

気が付いたら手を引かれて歩き出していた。

俺が女の子なら胸キュンエピソードかもしれないが、まあいつものことなので

中庭を見回すことに集中したその時

今日は雨など降っていなかったはずなのに左斜め後方からぴちょんと水の音がする。


「ひ、ひえぇぇ~!」


びくっと大きく揺れた俺に隼人が振り返るが、それと同時に俺は

それが止まった鹿威しだったことに気が付いた。

安堵して振り返って目が合う俺たちを足元のライトアップが照らしている。

隼人は疑うように目を細めて俺を見ると、また背中を向けて先に歩き出した。


「待ったー、写真撮ってないよ俺たち」

「お前、お化け写ってたとか言って泣くから撮るの止めとけ」

「あ、撮っちゃったわ紅葉」


溜息をつく背中の後ろを歩きながら、もうお化けへの恐怖は感じず

秋の夜の中庭を楽しんだ。

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