第19話 マフラー

悪夢のツーリングから数日、ついにマフラーが届く日がやって来た。

待ちに待ったマフラーだ。

スラッシュカットのドラッグパイプ。

午後の配達となっていたので午前で学校から帰り配達を待った。

しばらくすると佐川急便の車が入ってきた。

待ちきれずに玄関から出て大きな荷物を受け取る。

部屋に引きずり入れて開梱する。

ステンレス製の銀色のパイプだ。

カット部分は人を刺せそうな程鋭利だ。たまらない。

しばらく眺めていると外から単気筒の音が近づいてきた。

カズヨシだ。

マフラー交換を手伝いに来てくれたのだ。

すぐにマフラーを持って表に出る。

アパートの向かいの家から借りている駐車場で交換を行う。

「カスタムは自分でやってなんぼよ」

カズヨシは言う。

「俺、よくわかんねえよ」

「俺が一から教えてやる」

そう言ってカズヨシは持参した工具袋からレンチ、スパナの各サイズを取り出した。

「基本的は点検程度は車載工具で何とかなる。足りないのを買い足せばいい」

工具のチェックを行い作業に取り掛かった。

まずは純正のマフラーの取り外しだ。

各部のボルトを緩め外していく。

純正は2本セットで取り付けられているのとサイレンサーで重かった。

2人の作業でよかった。

慎重に外す。

「このフランジが大切だからな。柔らかいから壊さないように」

純正マフラーからフランジを開いて外す。

簡単に外れた。

マフラーのない状態でカズヨシがバイクに跨った。

「かわいい音がするからよ」

そう言ってエンジンをかけた。

キュルルッ!

ピョピョピョピョピョ!

予想だにしないかわいい音がした。

思わず二人で笑う。

と次の瞬間、カズヨシがアクセルを回した。

バリバリバリ!!!

一瞬で凄まじい音に変わった。

マサミは思わず後ろにのけぞった。

「ヤバッ!!」

「凄ぇだろ、エンジン内で爆発しているからな」

なるほど、その通りだった。

ドラッグパイプにフランジを取りつけ各ボルトを取り付ける。

ゆっくりと各部を順番に締め付け作業を完了した。

1時間ほどだった。

エンジンをかけると予想以上にうるさかった。

「ここじゃうるせぇから近くの駐車場で試運転しようぜ」

「おう」

都合よくマサミのアパートのすぐ近くにパチンコ屋があったのでその駐車場まで2人で押していった。

エンジンをかけアクセルを回す。

ドッドッドッ・・・

予想していた音と何か違う。

籠った感じだ。

「サイレンサーだな」

カズヨシは六角レンチでドラッグパイプについているサイレンサーを外した。

再度エンジンをかける。

ドドドッ!!

うるさいが抜けがよくたまらなくいい音だった。

「これだな」

「たまんねぇ」

振動もビリビリ来る。

駐車場を乗り回す。

ドババババ!!!

自分が乗っているときの音、カズヨシが乗っているときの音、交代で音を堪能した。

しばらくすると突然怒鳴り声が聞こえた。

ん?

慌てバイクを止める。

「てめぇらうるせえぞ!!テレビが映らねぇじゃねぇか!!!」

バイクのうるささにキレたオヤジが2階の窓から怒鳴る。

「すみません!!」

2人は慌ててその場から離れた。

予想以上のうるささだったがマサミは気にならなかった。

それよりもマフラーを替えたことで見た目も音もすべてが変わりその事に興奮していた。

駐車場を乗り回していた時には2速程度までしか速度を出せなかったが通りに出て4速までギアを上げる。

2台で爆音を上げ走る。

少し走ってカズヨシは帰っていった。

マサミも夜のバイトの為、すぐに帰宅した。


その時2人は発砲音にも似た爆発音にはまだ気づいていなかった

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