第18話 鍵

朝、背中の痛みで目が覚めた。

床で寝ていた為と前日走りっぱなしで体中が痛かった。

マサミはジュースを飲みながら煙草に火をつけた。

時刻は午前7時。5時間くらいしか寝ていない。

1本吸い終える頃3人も目を覚ました。

顔を洗い、歯を磨く。

「江口着いたかな?」

「分んねぇ」

「あとで電話してみようぜ」

そそくさと準備をしホテルを後にした。

その後はあまり覚えてはない。

目的を失った一行はただただ走った。

時折冗談が飛ぶが弾まない。

どうしても江口の事が引っ掛かる。

どこかのコンビニに居ないかと下道をひた走った。

新潟県に入り3時間、見附市で関ぴょんと別れる。

三条市でカズヨシとタカと分かれる。

「江口んとこ寄ってくれよ」

「あぁ任せとけ」

「いたら電話くれ」

「おう、じゃあな」

マサミは1人になった。

予想だにしない展開だった。

まさかの横浜からトンボ返りで1人はぐれるなんて・・・。


それから1時間、新潟市に入った。

江口のアパートの前にバイクを止める。

江口の部屋は1階で窓が通り沿いにありいつも窓から出入りしていた。

ドアも窓も鍵はかけない主義でいつでも誰でも出入りできるようになっていた。

窓の手を掛ける。

鍵が掛かっていた。

『マジか・・・いないのか?』

嫌な予感がする。

恐る恐る玄関側に回る。

バイクよ、あってくれ!

祈るように視線を向けた。

あった!

江口は帰ってきていた。

安堵と共にドアを開ける。

開いた!鍵はかかっていなかった。

中に入ると布団から金髪が見えていた。

「江口!江口!」

全く動かない。死んでるのか?・・・

「江口!江口!」

「お、おおぅ・・・」

ようやくうめくように目を開けた。

「無事だったか?」

「何とか・・・」

相当疲れているようだったのでマサミはそのまま寝かせてやることにし江口のアパートを後にした。

一気に肩の力が抜け緊張から解放された。


あの日、江口ははぐれた後すぐに新潟に向かった。

首都高を先に降りてしまったから自分が1番遅いと思い、皆に追いつこうと必死だったそうだ。

野宿しようとコンビニの駐車場で横になったがアスファルトの硬さと寒さで2時間も寝れなかった。

朦朧としながら家にたどり着きそのまま倒れるように眠ったそうだが人が来るのが嫌で無意識に窓の鍵を掛けたようだった。


この一件の後、泊りでの長距離のツーリングがこのメンバーで行われることはなかった。





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