第15話 田舎者
横浜に入り中華街に着いた。
バイクを止め通りに入る。
店も多いが人も多い。田舎者達は圧倒されていた。
少しでも目を離すとはぐれてしまいそうだった。
どの店を選んでいいか分からないまま、根拠はないが安そうな店に飛び込んだ。
メニューを選ぶ。
エビチリ、肉まん、小籠包、適当に注文した。
「これからどうする?」
「とりあえずここでたらベイブリッジ行こう」
「そっから東京」
「首都高乗ろうぜ」
当時の首都高は夜になると走り屋が出没しビュンビュン飛ばすイメージがあった。
雑誌やB級映画の世界がそのままあると田舎者達は本気で思っていた。
出てきた料理が回転テーブルに置かれる。
無意味に回す5人。皿がいくつも出てくる。なんの為かもわからない。
そもそも本格中華など食べた事がないのだ。
1人なら戸惑いや恥ずかしさがあるだろうがそこは5人。
田舎者は堂々と開き直っていた。
どれを食べてもさすがにうまい。
その中でマサミはあまり食べていなかった。
「どしたん?」
「いや、疲れて食欲ない」
そりゃそうだ、まだバイクに慣れていない上にバイクに対し体格も合っていない。
しかも大の外食嫌い。小さい頃からのトラウマはここでも発揮されていた。
更に初のツーリングでカズヨシを先頭に飛ばしまくるのだ。
ゆったり走れないなだ。アメリカンはそんなバイクではない。
「俺は逆に疲れた時ほど食欲出るぜ」
と関ぴょん。
『めでてぇ奴だな』
マサミは関ぴょんのノー天気さ羨ましかった。
「なぁ今日どこ泊まる?」
「わかんねぇ、どうする」
未だに行先も泊まるところも決まっていない。
明日、どこに置くかすらも決まっていなかった。
「ホテルっていきなり入れるのか?」
「こんな格好でいいのか?」
「迷惑だろ?」
「野宿でよくね?」
「嫌だよ!寒いし」
結局決まらないまま店を出た。
外に出るとすっかり暗くなっていた。
みんなでタバコに火をつけて地図を見る。
「よし!とりあえずこの通りを行けばベイブリッジだな。ついてこい!」
とカズヨシ。
「おい!あんま飛ばすなよ!」
タカが念を押すように言った。
エンジンを掛けるとオレンジ色のまばゆい光が差し込んだ。
「タカ、ウィンカー点きっ放しだぞ」
「ウィンカー社外品に替えたら点きっ放しになったんだ」
「すげぇ目立つな」
「ライト点けるとこうなる。で、ウィンカーを点けると・・・」
チカチカチカ!
超高速点滅だった。
皆が笑う。
タカのスティードは初期型だからライトはスイッチがあり自分で点灯させる。
マサミのスティードは新型でエンジンをかけると自動点灯でガソリンタンクも大きい。
「恥ずかしいんだよ!何か電極が合わないサイズを点けるとこうなるらしいぜ」
「いいジャン!これはこれで」
「そのうち球が切れるってよ」
「直すのの1万はかかる」
「うげっ!」
まばゆい光と共に5人は走り出した。
料金所を抜け首都高速に入る。
さすがにマサミ以外は満腹で走りものんびりになった。
少し走ると標識が見えた。
いよいよベイブリッジだ。
ベイブリッジに入りスピードを落とす。
と、カズヨシが止まった。
皆も止まる。
「おい!降りて写真撮ろうぜ!」
降りてはいけないところだ。
車がビュンビュンと通り過ぎていく。
田舎者達は怖いものを知らない。
路肩にバイクを止め柵を乗り越える。
2mほどのスペースがありそこで休憩する。
風は冷たかったがベイエリアの夜景がとても綺麗だった。
「写真撮ろうぜ」
江口がカメラを取り出し皆で数枚の写真を撮った。
この時ばかりはマサミも来てよかったと思っていた。
田舎では横浜ベイブリッジといえば都会のおしゃれなドライブコースであり、横浜といえば中華街と開通して間もないベイブリッジだった。
しばらく休んだ後都心に向かい走り出した。
これから起こる悲劇を知らずに・・・。
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