第19話 ダンジョン攻略開始⑥:不穏な予感

 ​​斥候役のスケルトンを放ち、周辺一帯への警戒を広げた結果、またもや脅威が迫っていることがわかった。


(!? 今度は後ろからミミズの大群……! しかも​今度は、ライオット種​混じり​だと!?)


 急いで装備を装着する。

 ミミズの大群​、​しかも今度はライオット種​の混在する魔物暴走スタンピード​。​驚異の質が桁違いである。​​


 思わずめめめんと目が合った。そんな出来すぎた話があるだろうか。まるで​映画みたいな突飛な展開​​である。


 やはりあの時、正面に突っ込んだのは正解だったのだ。


 あの時は"強いて言うなら正面"という程度の差​​で、前方を切り開くことにしたのだが、あの二択を外していたら俺たちは背後の凶暴種ライオット種​混じりの​大群と戦う羽目になっていたのだ。ダンジョンワームの大群といっても、通常種と凶暴種では話がまるで違う。

 まさに紙一重の出来事であった。


「やっば……。めめめん、やっぱり二択が下手・・・・・なんだ……」


「​一旦場所を移そう、さすがに凶暴種の大群を相手にするのは勝ち目が薄い」


 ​呆然としているめめめんの手を引きながら、俺は咄嗟に考えを巡らせた。


(大丈夫、さっきは近場の出口が全部ふさがれてしまって、なし崩しに戦闘に持ち込まれたけど、今回は出口が空いている。いざとなればここから脱出すればいい)


 ゆっくりと場所を​移しながら、丁寧にワームの大群に対処していく。ケンタウロス型スケルトンを駆使して、隊列から突出したワームを一匹ずつ駆除する。

 あくまで無理はしない。​​"逃げながら刺す"という腰の引けた戦いを、それでも​辛抱強く続けるしかない。


「叩いて、ヒュドラワーム!」


 めめめんが檄を飛ばした。

 呼応して巨大な魔物がワームの波に立ち向かった。

 非常に心強い光景だ。新たに俺たちの味方になってくれた大きな戦力。魔物合成の過程で偶然見つけた​、​特別種への派生。


 九匹のワームがねじれながら合体した、​異形の魔物――ヒュドラワーム​​型ゾンビ。​​

 その頭を震わせたかと思うと、びたん、びたん、と敵のワームを次々に叩き潰していく。圧倒的な暴力。まるで大きな鞭のような​暴れっぷり。あるいは巨木をぶん回すがごとくの一撃。どういう理屈なのか分からないが、このワームたちは合体する前よりも一匹一匹が遥かに太く逞しくなっている。まさに質量の暴力。


 九匹のワームの頭の部分が、絶え間なく地面や壁を叩き続ける。敵からすればたまったものではないだろう。

 ヒュドラワーム型はやはり特別種だけあって、力強さも頑強さも段違いである。


(だが、数が違いすぎる)


 圧倒的な​暴力​、耐久力、そして殲滅力。​​ヒュドラワーム​型の活躍は疑いようもない。

 それをもってしてもなお、戦いの趨勢は、敵のワームの大群の方に傾きつつある。ヒュドラワーム​​が負けている訳では無い。単純に数が多すぎるのだ。

 押し寄せてくる集団。

 ​敵のワームの大群はますます勢いを増しており、ヒュドラワーム二匹​の処理能力を大きく凌駕している​。


(これはもう撤退戦だ。敵を少しずつ減らしながら、徐々に出口に向かって逃げるしかない……!)










 白状すると、この時俺は、いざとなれば出口に向かえばいいだけだと思っていた。


 だから俺はすっかり忘れていた。

 先ほどまで浸かっていた温泉の奥にある扉の説明――「危険:クリアランス-Lv5以下は立入禁止」の文字の存在を。

 

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