第14話 ダンジョン攻略開始③:「ミミズを口に咥えろ!」
◇◇◇
"背後さえ取られなければ"。
地下鉄ダンジョン内に入った以上、安全な場所はない。だから背後には細心の注意を払っていた。
だから脱出できる出入口を確保しながら、次の出入り口付近、次の出入り口付近……と移動を続けてきたし、今回のようなミミズの大群が前方に現れても焦りはなかった。無理だと思えば、少し戻れば脱出口がある。
そう思っていたが――その前提が覆る事態が発生した。
迷宮が地形変化を起こしたのだ。
「!」
脱出口がひしゃげてそこから出られなくなっている。想定外の出来事である。
(いや、大丈夫、さらにもう少し戻ればいい、だけ……)
後ろの方に目を向ける。魔物の気配はない。先ほどまで安全を確認しながら前に進んでいたのだから、当然と言えば当然である。
もっと移動のペースを上げつつ、隊列を乱さないように気を払って交戦を続け、そうやって後退すればいいだけ。問題はない。
だが妙な胸騒ぎがする。
迷宮に意志があるとすれば、まるで俺を閉じ込めに来たかのような――そんな得体の知れない気味の悪さがある。
「! ネクロ、待って、まずい!」
突如メイラが甲高い声を上げた。悪い予感がした。それも極めて悪いもの。正直に言うと、何を言われるか予想出来てしまった。
「背後に放っていた偵察用の魔獣が、倒された……!」
「……。全力で前に進め!」
「後ろじゃないの!?」
「迷宮変動の直後だ! 危険種が背後に出た可能性がある!」
もちろん前方に出没した可能性もあるが、それだと背後に放っていた偵察用の魔物が突然倒された理由が説明できない。考えすぎかもしれないが、今はむしろ、前方のミミズの大群を切り開く方が、まだ不測の事態に備えて色々と柔軟に動けそうである。
(少しだけ《
言い方は悪いが、数に任せて襲いかかってくる弱い魔物相手なら、こちらの方が強く出られる。
ぶちゅぶちゅ、と妙に粘っぽい音がする前方にじりじりと進んでいく。この際天井のミミズたちは知ったことではない。
とにかく前方を切り開いていくのみ。
「魔石を!」
屑魔石を大量に回収する。
使役している魔物に与えれば魔物が強化される、ということが前回分かったので、それを利用して少しでも味方を強化する。ミミズみたいな小柄な魔物から取り出せる魔石なので、平均的な魔石よりも一回り小さく質も悪いが、数なら腐るほどにある。
とにかく、たくさん倒して、たくさん強化して、を繰り返すのだ。
「うっげえ、やば、ちょ、汁が……! めめめん、こういうのちょっと苦手……」
「俺もだよ! 好きな奴いないよ!」
ケンタウロス型スケルトンに正面突撃してもらいつつ、じりじりと前方へ足を進めていく。
隙を見て魔石を回収して、大量に魔物たちに食わせる。
やるべきことは明快だ。倒す。食わせる。倒す。食わせる。気が急いて仕方がないが、とにかく大量に、無我夢中で倒し続けるのが生き残る可能性を高める唯一の道だ。
「うええ!? ちょ、ごめんね、ミミズさん!」
そういって
「本当に前に進んで正解なの!? ねえ、信じて大丈夫!? 何なら、めめめんが直接、後ろの方を偵察しに行ってもいいよ!」
「……信じろ! 今は前だ!」
正直、分からない。分からないが明確なことは一つある。
徐々に俺たちは強くなっている。上手くは言い表せないが、じわじわと《
今信用していいのはこれだけだ。少なくとも俺たちは、徐々に強くなっている。そして少なくとも敵は徐々に数を減らしている。それはつまり、徐々に状況が改善されているということだ。
「――ははは! 楽しくなってきたなあ!」
「どこが!?」
「とにかく魔石を集めて食わせて、ガンガン進んでいくぞ!」
「ふええ……やっぱりめめめんよりやばい人だよお……」
失礼過ぎる。こう見えて俺にはまだ希望があるのだ。前の方がまだ可能性があると言ったのは、あながち嘘ではない。
徐々に味方の魔物たちが損耗しているも、それでも俺は全然この状況を悪い状況だとは思っていなかった。
「それよりメイラ、君に頼みがある」
「! いいよ、偵察ね!」
「違う、よく聞け、もっと重要なことをお願いするぞ」
この状況を打破する閃き。
俺は腹からの大声で支持を飛ばした。
「ミミズを口に咥えろ!!」
「――は?」
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