第9話 解放区の一部地域が陥落しそうだとニュースで知り、強くなることを決意するやつ & 操っている魔物をどんどん合成して強化するやつ

 ◇◇◇






 SNSで今たくさん流れている投稿たちを見ながら、俺は呆気にとられた。

 ――Pref:OSAKAの解放区、陥落目前。ターミナル施設の一部破棄を検討中。



「そんな、Pref:OSAKAの解放区が陥落しそうだって!? そんなの、サエキさんが……!」



 SNSの話題は、【Pref:OSAKA】の《魔物暴走》で持ち切りだった。

 他国でも類を見ない、先進的な"迷宮内ベースキャンプ制度"。そしてその制度を活用し、民間人に魔物退治を実施させることで実現した、高レベル探索者の促成栽培。

 迷宮内で難民たちに弱い魔物を退治させるという仕組み――その根幹が揺るがされる大事件、それが今回の魔物暴走である。



「? サエキさん? 誰それ?」



「あ、いや、俺の面倒をよく見てくれる女の先輩なんだけど……」



 そう告げると、めめめん、ことメイラの瞳孔が急に虎のように細くなった。へえ、とこぼした彼女の声が極端に冷たい。ちょっと怖い。一体どうしたのだろう。



「……まあいいけど。めめめんもその記事見たよ、確かに解放区が危ないらしいね。でも、じゃあ何かするの? まさか手助けするために加勢する?」



「……。いや、俺一人の力じゃどうにもならないと思う。けど……」



 彼女の指摘に俺は頭を冷やした。

 分かりやすい話だ。確かにサエキさんは助けたい。だが俺は所詮はD級冒険者。D級冒険者たった一人が加勢したところで何にもならない。



 かといって、この《死霊使い》の能力を大っぴらに公開するわけにもいかない。そりゃあサエキさんを助けるためならば、この能力が世にバレてしまうのもやむなしかもしれないが、【Pref:OSAKA】ほどの大規模な解放区であれば、《英雄》指定の探索者がきっと駆けつけてくれるはず。つまり今、わざわざ解放区に向かう意味はない。



 そう、意味はないのだが――。



「遅かれ早かれ、解放区には向かわないといけないよな? 食料を買い込んだり、調味料や衣服や消耗品を手に入れるためにも、いずれ解放区には行かなきゃ駄目だ」



「……」



 自分の思いを告げると、彼女の視線がさらに冷ややかになった。ジト目って奴だろうか。

 どうも目で抗議されている気がする。

 いや、彼女の気持ちは十分わかる。危険な目に遭うだけだし、能力の情報が周囲にもれる危険性もあるし、大して助けになれない可能性が高い。



 だから今じゃない。



「……もっと強くなって、魔物の大群を押しのけられるぐらいの力を手に入れたい。それぐらいの力があれば、きっと解放区を助けられる」



「……へーえ、解放区に行くのは確定なんだ」



「協力してくれるか?」



 そんな悠長なことをしてたら、先に陥落するかもしれない――そんな焦りに似た予感が脳裏をよぎった。

 だが、それ・・に飛びつくのは絶対に駄目だと思った。それだけはやってはいけないと思った。それは、弱小探索者のカンザキ・ネクロのやり方ではない。

 俺は、サエキさんさえ無事ならいい。



(……そうだよ、大丈夫だ、サエキさんは凄く強い人なんだ。今はサエキさんを信じるんだ)



 あーあ、めめめんは反対なんだけどなー、という呟きが聞こえた。拗ねているような声だった。実際のところ気持ちとしては反対なのだろう。

 だけど彼女は、協力しないとは言わなかった。それを俺は信じるつもりだ。











 ◇◇◇











 じっくり腰を据えるなら、俺の《魂の位階》を高める必要がある。だがそれだけでは足りない。

 なので俺は、操作している骸骨たちを強くすることにした。



「――骨をたくさん合体させて、最ッ強の骸骨軍団を作ってやる!」



「えっ」



 余っている骨を接合させて、腕や脚をたくさん増やす。

 胴体に余っている防具を着用させる。複数購入したハイエンドモデルの防具をあえて骸骨に装備させて、耐久性を大幅に高める。



 こうして出来上がった新しい骸骨軍団。

 名付けてケンタウロス型スケルトン軍団。二体分の骸骨を上手いこと組み合わせて、腕が四本あるケンタウロスのように仕立てあげた。



「えっ、まって、えっ、何かめめめんの予想外の方向だった」



「え? かっけえじゃん」



 これぞ俺の考えた最強の戦士。ケンタウロス、まじでかっこいい。

 そんな感じでテンションが上がっている俺に対し、彼女は何やら困っているように見えた。



「ほら見ろよ! ただの骸骨だったら鉄パイプ振り回すのが精一杯だったけど、ケンタウロスにしたらもっと重い木材でもぶん回せるじゃん! しかも馬型だから背中に乗れるし、荷物も運んでもらえるし! ほらよ!」



「……魔石使うんじゃないの?」



「えっ」



「魔石」











 …………。

 ……。











 魔石を使うと魔物が強くなる。

 さも当たり前のように彼女は言っていたが、俺からすると目から鱗の発見だった。使役契約を結んだ魔物に魔石を与えるというやり方があるなんて。



「あの、えっとね、ネクロも凄いよ? めめめん全然そんなの思いつかなかったし、魔物を合体させたら強くなるなんて知らなかったし……」



「……」



 魔物は魔石を食べる。魔石を食べた魔物は僅かに強化される。



 どれぐらい効果があるか、うまく数値化することはできないが、体感、十個ぐらいの魔石を与えたら、動きが二割ぐらい良くなっているように見える。



 この上で更に、魔物合体作戦を実施すれば、当初の倍近い身体能力を誇る魔物を使役することができるようになる。対峙すれば分かるがめちゃくちゃ強い。やはりケンタウロス化は正解だったのだ。



 欠点を挙げるとすれば、ケンタウロス一匹につき魔物二匹分の魂魄を消費するというところか。

 つまり普通に骸骨二匹分の枠を使い潰している。骸骨をケンタウロス化しても使役上限枠の節約にはならなかった。







 ○ネクロ配下(35):

 ケンタウロス型スケルトン(2) 十七匹

 人型ゾンビ(1) 一匹



 ○メイラ配下(25):

 人型ゾンビ(1) 十八匹

 獣型ゾンビ(1) 七匹



 ※()は魂魄数上限および消費魂魄数。







(魔物を合体させて強い魔物を使役するか、それとも弱い魔物に魔石をたくさん与えて強化するか。どちらがいいかな……。こうなってくると使役上限がボトルネックだけど)



「ねえ、ごめんってば、めめめんのこと許して、黙らないで」



 正直なところ、俺は物凄く感動していた。



 魔物合成と魔物への魔石供与。これだけで自分がぐんと強くなった気がした。間違いなくできることの範囲が格段に広がった。

 これで、もっと強い魔物相手でも配下に任せられる。もっと強い魔物がいる場所に行っても何とか戦うことができそうである。



 ひょっとすると、これはとても凄いことに気付いたんじゃないだろうか。

 このまま魔物強化を極めていけば、俺はとんでもなく強くなるんじゃないだろうか。



 そんなことを頭の中で考えていると、気付けばメイラがすっかり涙目になっていた。ずっと黙考に沈んでいたから彼女のことに気が回らなかった。



「ごめんなさい、かっこいい、かっこいいから、無視しないで……」



 ……何だろう。この子、もしかして結構怖い子だったりするだろうか。



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