第7話 お互いの自己紹介と新しい拠点となるホームセンタの説明をするやつ & 勘違いラブコメでいちゃいちゃするやつ
◇◇◇
すっかりゾンビダンジョン化したホームセンタ(正しくはDIY王国、という名前のホームセンタである)に入り浸ってしばらく経った。
住んでみた感想は、「ホームセンタって便利だね」というごくありきたりなものだった。
二階建ての広い建物。あらゆるものを取り扱う品揃えの幅広さ。
住むなら間違いなくここがいい。
自転車がある。防犯用品がある。合板や内装建材や工事用品がある。家具用品も園芸用品もインテリアも揃っている。スポーツ用品、キャンプ用品だって山ほどあるし、薬局まで併設されている。
一般人たちがここに立て籠もって、魔物相手に数か月粘ったというのも納得できる話だ。
「ね? 便利でしょ? たまに入り口のバリケードを乗り越えて魔物が侵入してくるけど、うちのゾンビが囲んで倒してくれるし」
ここがめめめんの部屋です、と言わんばかりに自慢げに紹介してくれる彼女の話を半分聞き流しながら、俺は周辺を見回して考えた。
生活コーナーの一角は、すでに彼女の部屋になりかわっていた。
足踏み式充電器と延長コードがあちこちに散らばっている。
防寒用のタオルケットと、オフィス用の低反発クッションを上手く組み合わせた、恐ろしくふかふかなくつろぎ空間。その近くには大型モニタと音響機器。
きっと快適な暮らしぶりだったのだろう。
奥にあるのはシャワー室。
ケトルで湯を沸かして、雨水などを割り足して適切な温度にして、持ち運び式シャワーを使っていたのだろう。
本当にこのホームセンタは、生活に事欠かない。
難点を挙げるとすれば、施設のダンジョン化が進んでしまったところか。
例えば園芸コーナーに植物系の魔物が住み着いてしまっているが、今のところは謎の実を作ってくれるので放置されている。葉や果実を油で炒めて食べるとそこそこ食べれるので、まあ無理して討伐しなくてもいいかなと思ってはいるが、冷静に考えるとちょっと怖い。
「……ところで、なんだけど」
よく分からないゆるキャラのクッションを胸元に抱えながら、彼女は躊躇いがちに口を開いた。一体何を言い出すのだろうと思って耳を傾けたが、内容はなんてことない話だった。
「めめめん、お互いのことをもっと知りたいんだけど、いい……?」
◇◇◇
■カンザキ・ネクロ
【探索者ランク】
D級探索者
【ジョブクラス】
《一般人Lv6》《死霊使いLv1》
【通常スキル】
「棍棒術3」「強靭な胃袋1」
《死霊使いLv1》
備考:
・一日当たり一匹の死霊と使役契約を結ぶことができる。
・最大で《魂の位階》× 5匹の死霊を操ることができる。
・??????
〇装備品
・防刃シャツ
・防刃ジャケット
・防刃ボトムウェア
・防刃手袋
・軍放出品 運搬用リュックサック
■メイノミヤ・メイラ
【探索者ランク】
D級探索者
【ジョブクラス】
《一般人Lv4》《屍鬼姫Lv1》
【通常スキル】
「体術2」「歌唱1」「舞踊1」「演奏2」
「裁縫1」「筋力強化1」「熱源感知1」「刻印魔術1」
《屍鬼姫Lv1》
備考:
・肉体が屍鬼化して、身体能力が向上する。
・噛みついた相手を屍鬼化して、使役契約を結ぶことができる。
・最大で《魂の位階》× 5匹の屍鬼を操ることができる。
・??????
〇装備品
・防刃シャツ
・防刃ボトムウェア
・耐久増幅の指輪
◇◇◇
「【屍鬼姫】の能力は、噛みついた相手をゾンビにできて、それを使役できる能力。この拠点に棲息していたゾンビたちは全部、めめめんが一旦噛んだあとだから大丈夫。あと、【屍鬼姫】のジョブクラスを獲得したのと同時に、頑丈な耐久能力も手に入れたの。腐ったものを食べてもお腹を壊さなくなったし、毒や病気にも強くなった」
ホームセンタの外にいる魔物を一緒に倒しながら、めめめんはそう説明してくれた。
にしても【屍鬼姫】なんてジョブクラスは初耳である。もしや俺と同じく、突然後天的に獲得した能力なのだろうか。
「だけど一つだけ困ったことがあって、めめめんはもう大怪我をしても病院にはいけないんだ。だってめめめんはもうゾンビの身体になってるから、病院に向かったらきっと大騒ぎになっちゃう」
ナックルダスターで狼の魔物を殴り飛ばしながら、彼女はどこか痛みを抱えたような表情でそう答えた。絵面は暴力的だが、言ってることは結構悲しい。
そう、病院に真剣に相手されないのは悲しいことだ。俺はよく知っている。
「だから君は、大怪我をするリスクのある高難易度の依頼を受注することができず、ずっとD級冒険者のままだと」
「そう。探索者としての成功は諦めているの。昔は、迷宮攻略の
――それがVtuberなの。人に夢を与えられるから。
そういいながら彼女は、思い切り狼の魔物を殴りつけて昏倒させていた。凄い馬鹿力だ。もしかしたら、ゾンビ化した影響で、筋力や肉体の強靭性も上がっているのかもしれない。だとすると【屍鬼姫】のジョブクラスって、非常に希少で便利な気がする。
ぐったりしている狼に噛みついて使役獣にしようとする彼女に、ふと質問を投げかけてみる。
「……もしかして、身体がゾンビになったから【解放区】の外でくらしているのか?」
「正解。共同銭湯に入ったら身体の匂いでバレちゃうかもしれないし、そもそもお金をそんなに持ってないしね」
(似てる)
一緒に暮らさないか、という言葉が口から出かけた。
彼女と俺の境遇はあまりにも似ている。能力を秘密にしたいという考えも一致しているし、能力の相性も悪くない。あの旧伽藍洞アパート群には腐るほど空き家がある。ホームセンタとアパート、お互いにひとり寂しく暮らすより、近所に住めばお互いに手助けできることもあると思う。
同じ秘密を抱えた仲間同士、仲良くできるような気がした。
「あのさ、もしよかったら一緒に暮らしてみない――」
「ねえ、さっきから魔物多くない? 何でこんなにホームセンタに来てるのかな、普段より遥かに魔物が多く湧いてる」
話を途中で遮られてしまう。
だが確かに魔物が多すぎる。それは俺も疑問に思っていた。一体どうしたことだろうか。さっきから魔物を七体ぐらい倒しているが、気付けばまだまだ魔物が近寄ってきている。
解放区の外で魔物に遭遇することはままあることだが、それでも同じ場所にとどまっていたら立て続けに七体も遭遇しました、というのはおかしい。何もないにしては多すぎる。
あとで情報端末でSNSの情報でも探ってみるかな、と思ったその刹那「ひゃああ!?」と謎の悲鳴が上がる。
「え、まって、今なんて!? ちょ、嘘、やっぱりそうなんだ!? やっぱりめめめんのこと……!」
何だか会話のテンポが噛み合ってない気がする。俺の話が今になって、耳から頭に届いたらしい。
だが俺の興味関心は、もうすでに魔物の異常発生の方に向いている。
「……今夜はぐっすり眠れないかもな」
「!!」
一晩中、魔物の襲撃を警戒するためにどちらかは起きて周囲の警戒をしないといけないかもしれない、ということを伝えようとしたら、「ひゃああ……」とか言って全然話を聞いてくれなかった。
やはり先ほどから、どうにも会話が噛み合ってない。もしかして、本当にもしかしてなのだが、俺と彼女の間には何か致命的なズレがあるんじゃないだろうか?
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