第5話 ゾンビと言ったらホームセンタに足を運ぶやつ & 主要なヒロインの全裸ハプニングに突如出くわしてしまうやつ

 ホームセンタについて、分かっている範囲のことを語らせてもらおう。


 取り扱っている品物はおもに、DIY(Do It Yourself)用品、園芸用品、家庭日用品、家電製品や家電、カー用品、食用品。

 もともと農業用品・園芸品・建築資材に特化した専門店であったが、市場規模の拡大や利益率の向上を追求していく中で、食料品、衣類品、日用品なども扱うようになった。

 売上高構成はおおよそ、DIYが25%程度、園芸・エクステリアが20%程度、家庭用日用品が20%、その他35%ぐらい。

 新型ウィルス流行の際は、感染対策用のビニールシートやアクリル板、その他、衛生用品やインテリア用品なども取り扱っていた。


 迷ったらホームセンタに行けば大体なんでも揃う……というのはあながち過言ではない。


 ひと昔、「SNS映え」のトレンドに乗って「DIY女子」が取り上げられるようになり、DIYブームが訪れた。おしゃれなカフェを店内に展開したり、電動工具や3Dプリンターを無料で貸し出して買った商品をその場で加工することができる特別コーナーを設置したり、リフォームサービスや宅配サービス、トラックのレンタル等、様々なサービスを取り入れる動きが増えた。


 ――しかし、《魔物災害》が発生した。


《魔物災害》以降、企業数は激減しており、M&A合併買収により中小企業が大手に再編される営みがずっと続いている。これは《魔物災害》以降のどの市場にも見られる傾向であり、資本力のある大手企業が中小を合併するのは、資本主義の流れともいえる。


 長くなったが、《魔物災害》の影響や、吸収合併のどさくさで、そのまま遺棄されてしまったホームセンタも数多い。はっきり言って、魔物汚染された地域を奪還するのは非常にコストがかかる。

 俺が向かうホームセンタ(通称:ゾンビ王国)も、そういった遺棄されたホームセンタのひとつである。












(臭くて湿っぽい、金になる素材が乏しい、雑菌がうじゃうじゃ蔓延っている、そのくせ放置していても対して脅威にならない――ゾンビの巣ってのは、そんなものばっかりだよな)


 骸骨軍団が鉄パイプを片手に握って、ゾンビに群がってよってたかってぶん殴っている。酷い構図だ。時々聞こえるゾンビの呻き声が何とも言えない哀愁を誘う。

 俺の配下となっている骸骨たちには、集団戦闘を徹底して仕込んでいる。極力、単体で戦わないこと。常に数の優位を活かして間断なく殴り続けること。この戦いも、もはや定型化された作業となっていた。

 今でも、ゾンビ一匹にたいして骸骨五匹で対処にあたるという徹底ぶりである。勝てる戦いを確実に、安全に勝つことが、たくさん稼ぐ探索者の秘訣。俺は勝手にそう思っている。


(これが俺の狙いってわけよ。ゾンビを調達できる・・・・・。上手くいけば、骸骨軍団だけじゃなくて、ゾンビ軍団も形成できる)


 そう。

 俺はまだ《死霊使い》の能力を完全には把握しきれていない。

 例えば、骸骨以外の魔物、ゾンビなども操ることができるのか。

 例えば、三十五匹制限は、骸骨以外も含む合計なのか、それとも骸骨とゾンビは別枠なのか。


 観察していて分かったことだが、スケルトン(骸骨の魔物)は、ゾンビよりも速いが脆い。逆に腐った肉体を引きずるゾンビは、スケルトンよりも遅いが耐久がある。

 この二つを上手く組み合わせることができれば、自分の《死霊使い》の能力をもっと柔軟に活用することができる、という予感があった。


(うっし、成功!)


 案の定、俺はゾンビと従魔契約を結ぶことができた。三十五匹制限は受けたものの、骸骨との契約を解除してゾンビと契約を結び直すことで問題なく終わった。

 それにしても呆気ない。もっと暴れて抵抗するかと思っていたが、生きている魔物(※死んでいるけど)と従魔契約する場合も、問題なく契約が成立することが分かった。

 このまま行けば、幽霊系の魔物とも上手く契約を結べるかもしれない。


(いやーよかったよかった。旧伽藍堂アパート群にある骨がなくなったらどうしようかなーと思ってたところなんだよな。これで当分は配下を調達する先に困らないや)


 しかも何が好都合かというと、このホームセンタには色んなものが揃っている上に、まともな探索者はそばに寄ってこないというおまけつき。

 あとは、このゾンビに汚染されたホームセンタを、徐々に解放していくだけ――。






「ぎゃああっ! やば、でっかい虫! 殺虫剤を取らなきゃ……」


「えっ」


 それは突然のことだった。まるで時間が止まったかのようだった。

 裸で飛び出してきた少女と、ばっちり目が合ったのだ。


 髪も肌も濡れているから、恐らくシャワーでも浴びていたのだろう。肌に湯気が立ち上っているから、きっとお湯が使える環境なのだろう。そんなどうでもいい情報ばかりが頭に入ってくる。おかげで状況を冷静に咀嚼できない。


「えっ」


「エッッッ」


 がしゃん、がらがら、と金属棚から商品が落下して喧しい音を立てた。乾いた無機質な音は店内によく響いた。とりあえず俺は、まじまじと目に焼き付けてしまった。

 この強烈な出会いが――【屍鬼姫】メンヘラアイドル★めめめんとの最初の邂逅であった。

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