第4話 将来確実にメインキャラになる女子とすれ違うやつ & レベルアップに悩んで新しい場所に出かけようと決断するやつ
◇◇◇
一般的に探索者は、名前がちょっと知られてきたぐらいの時期が最も危ないと言われている。何故ならば、追い剥ぎ強盗に遭う可能性がぐんと増すため。
稼ぎもそこそこあり、装備品も充実してきた頃合いで、それでいてまだ経験豊富なベテランの域には達していない。自らの実力を過信して油断が出始めるのも、ちょうどこのぐらいの時期。いわば
Vtuber(Virtual Tubeの動画配信者)である「メンヘラアイドル★めめめん」もまた、ちょうどまさに名前が売れ始め、順調に知名度を伸ばしつつある時期にさしかかっていた。
(ちゃんと気をつけなくちゃね。尾行されてないか周囲を気にしたり、顔バレ声バレしないように配信時はアバター機能とボイスチェンジャー機能をきちんと使ったりして……)
迷宮攻略の
同じように、まだ
(絶対に売れてやる。もっともっと名を上げて、めめめんにスポンサーの話が舞い込んでくるまで、のし上がって見せる。戦う才能がなくても成功できるって証明して見せるんだ)
地下鉄ダンジョンの浅層の歩き方ガイド、おすすめ料理店、ゴス系のコスプレ披露、装備品レビュー動画、サバイバル配信――めめめんは、自分に戦いの才能がないことを承知の上で、それでも負けじと頑張ってきた。
戦いの才能がなくても、それ以外の持てる全てを活用すれば成り上がることができる。別に探索者として迷宮開拓に命を賭けるだけが幸せになる道ではない、と。
「毎度お買い上げありがとうございます。占めて260000マナになりますが、当店のゴールド会員様であるお客様は、一割引きして234000マナのお支払いとなります」
だから、装備品にも妥協をしない。
今日買ったものは《ラプラス・スポーツ》の防刃シャツの
二か月かけて、魔物を三十匹以上討伐し、動画を五本投稿し、薬草などの有用な素材集めから魔術刻印のネイルアートまで、ギルドの依頼案件も手広く手掛けて、ようやく稼いだ234000マナ。
それをこのシャツ一枚に変えるのだから、覚悟が違う。
(絶対に成功してみせる。この程度じゃ満足できない、めめめんは必ず、トップスターになってみせる)
だから――隣の男のような適当な奴はいけ好かない。
どう見ても低級探索者の身なりのくせに、へらへら笑いながら「洗濯が楽になるんで、同じの三枚下さい」とかいって、ハイエンドモデルを三枚買っていくような、計画性の全くない冒険者がきらいなのだ。
白髪、無気力そうな顔、そしてダサい服装。
(どうせ希少種を偶然狩ったとか、臨時収入が手に入ったとか、そういうお金を散財してるんでしょ。めめめんは違う、臨時収入が手に入っても、そんな買い方はせず、きちんと他の種類のハイエンドモデルも計画的に順次そろえていく)
めめめんは、隣の男に対して「迂闊な男」と評価を下した。何がそんなに苛立つのか分からないが、癇に障るのは確かだ。
この隣の男――《死霊使い》カンザキ・ネクロと、《屍鬼姫》メンヘラアイドル★めめめんが関わりを持つのは、もう少し先のことである。
◇◇◇
「うーん、流石に上限があるかあ……骸骨を三十五匹までしか操れないとはなあ」
アパートに戻った俺は、ちょっと悩ましい事態に直面していた。
《死霊使い》の検証を続けていてわかったことだが、どうやら従魔にできる骸骨の数には限界があると判明した。
事実、三十匹ほどの骸骨を維持するだけでも、結構精神力を持って行かれる。
あまり子細には説明できないが、この感覚は、俺の《魂魄》を使っている可能性がある。拾ってきた骨を使って従魔契約を結ぶ時も同じく《魂魄》を消費するので、俺の今の《
■カンザキ・ネクロ
【探索者ランク】
D級探索者
【ジョブクラス】
《一般人Lv5→6》《死霊使いLv1》
【通常スキル】
「棍棒術3」「強靭な胃袋1」
身分証明証代わりの、
このうち、ジョブクラスとして《○○Lv XX》と書かれているのが《魂の器》とか《魂の位階》とか呼ばれているものだ。《魂魄》と呼ばれているのはLv XXと書かれている数字。
魂魄という言い回しは分かりにくいので、レベル、と呼ばれている。
魔物をたくさん倒して《
少々語弊があるが、レベルが高いほうが、魂のエネルギーをたくさん使える、というわかりやすい話だ。
恐らく1レベルにつき骸骨を五匹使役できる、という計算になるのだろう。
「うーん、どうするかなあ? 次のステップに進むなら、レベルを上げるしかないんだけど、旧伽藍洞アパート群に住み着いている魔物たちはそんなに《魂の位階》が高いわけじゃないからなあ……《魂魄の欠片》を吸収できるかって言われると、そんなにたくさんは稼げないんだよな……」
現状、最大の懸念点は人目に触れてしまうというリスクだ。
この特殊ジョブクラス《死霊使い》は、できれば秘匿しておきたい。
だから、レベルを上げるために地下鉄ダンジョンなどに潜ろうとしても、このアパートでやっているような、骸骨の群れをぞろぞろと引き連れて集団で戦う方法は実行しにくい。
この伽藍洞区が理想的なのは、解放区の外にあるから誰も近くに住んでいないということと、バイオテロによる放射性物質の影響で誰も足を踏み入れないこと、そして魔物がそこまで強くない、という三つが噛み合っているからだ。
《魂魄の欠片》が手に入りにくいという点に目をつぶれば、現状維持でも文句はない。
しかし、である。
「……ハイエンドモデルの装備品も徐々に揃ってきているし、解放区の外をのんびり散策するぐらいならまあいいかな」
ちょうど、もう少し強くなったら行ってみたいと思っていた場所があるのだ。
それは巨大ホームセンター。通称ゾンビ王国。
かつてこの付近の解放区が整備されるまで、人々がそこに立てこもってゾンビ軍団と戦い、やがて壮絶な最期を遂げたとされる跡地である。
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