第3話 ダンジョンの説明とか探索者ギルドとか世界観説明するやつ & サクサク魔物を狩ることに成功しているのでそろそろいい装備品を買おうかなと思い立つやつ

 ◇◇◇






 ダンジョン。

 それは空間のゆがみである。


「位相の異なる黒い穴」の内部の世界、そこに足を踏み入れて魔物と戦い、財宝や資源を持ち帰るのもまた探索者の仕事である。

 この黒い穴を放置しすぎると、魔物と呼ばれる怪物が湧き出てくる。不幸なことに、いくつかの国(Domain)はこの黒い穴から出てくる魔物に対処し切れずに滅んでしまった。


 地上は、魔物ですっかり溢れかえってしまったのだ。


 それでも人は、生き残るために知恵を絞った。安全な場所を作り出すために寄り集まった。

 鉄道・リニア・空港ごとに「ターミナル」と呼ばれる駅を作り、その周囲を取り囲むように大きな壁を作った。【解放区】と呼ばれる安全地帯。言い方を変えれば解放区は、魔物からターミナルを守るための砦である。


 ターミナルを守るため、ターミナルとターミナルをつなぐ線路や設備を守るため、魔物にあふれてしまった地上を奪還するため、そして黒い穴ダンジョンを領土から駆逐するため――探索者たちは魔物討伐を続けている。


 中でも、最大級の「黒い穴」には、日夜大量の探索者が足を踏み入れて戦いを続けている。

 すなわち――地下鉄と融合したダンジョンである。






 ◇◇◇






「……おらよ! 三匹目!」


 コウモリの魔物の頭を、金属バットで思いっきりぶん殴る。手ごたえは十分。

 空飛ぶ魔物は基本的に軽い。骨も筋肉も強度が足りない。地面に墜落した魔物は、そのまま身を痙攣させつつ息絶えた。


 地下鉄ダンジョン【UMEDA】。

 この【Pref:OSAKA】にある地下鉄ダンジョンは、迷惑なことに【WEST-UMEDA】【EAST-UMEDA】【UMEDA】と、全部違う地下鉄ダンジョンが一つに合体して構成されている。空間としてはひとつながりなのだから一つのダンジョンになっていてほしいものだが、強大なコア反応が三つも検知されたので分類上そうなっているのだという。おかげで魔物が非常に多く湧き出てくる。


(やっぱりダンジョンは謎が多いな。ここからが入り口でここからが出口です、みたいに綺麗な境目があればいいのに、それがない。ダンジョンって一体何なんだ?)


 黒い穴の内部のことをダンジョンと呼ぶ。それは正しい。

 だが、黒い穴が施設と同化する現象は一体何だろうか。黒い穴は影を食べる性質がある、という学説を見たが、正直、眉唾物である。


 地下鉄まるまる一つがダンジョンと同化しました、とか、超高層複合ビルと同化しました、とか、豪華客船がダンジョンと同化しました、なんて報告をみると、もはや何でもありじゃないかと思えてくる。

 国土地理院の測量部隊がダンジョンかどうかを決めているらしいが、定義は不明瞭だ。ラプラスエンジンが計算する【浸透係数】という謎の係数で報告されているそうだが、算出理論はちんぷんかんぷんだ。浸透係数が高ければ高いほど、魔物の《魂の位階レベル》は高く、倒したときの《魂魄の欠片》の獲得量も多いと聞くが、厳密な計算式は公表されていない。ダンジョン基準を一般に公開できないのは、何か理由があるのだろうか。きちんと測定器みたいなもので計っているのだろうか。


 四匹目となるコウモリを金属バットで殴り飛ばしながら、俺は何とも整理のつかない気持ちのやり場を失っていた。


(放っておいたら地形と同化するなんて、そんなのもう、この星が全部ダンジョンになりました、みたいなことになるんじゃねーかな)


 何が怖いって、もしターミナルがダンジョン化したらどうするのだろうか。【解放区】が突如ダンジョンになってしまったら。そうしたら一体、どれだけの被害が出るのだろう。

 想像もつかない。きっと大惨事になる。

 黒い穴がどういう理屈でどう発生するのかを解明できない限り、そういった突然の悲劇がいつ起きてもおかしくはない。


(ま、俺にできることなんてたかが知れてるけどよ!)


 五匹目。

 地上に撃墜されたコウモリたちの首を丁寧に折ってから、背中の籠に詰め込む。地下鉄ダンジョン【UMEDA】の第一階層までしか潜入できていないが、今日の収穫はこれで十分と判断した俺は、そのまま地上に踵を返すのだった。






「――占めて20000マナ。今日も儲かったなあ!」


 ギルドの素材受付窓口から電子マネーを受け取りつつ、俺はほくそ笑んだ。これでこの前駄目にしてしまった靴を新調できる。歩き疲れない高品質な靴は探索者の必須アイテムなのだ。


 探索者支援機構、通称ギルド。主務省所管課は、経済産業省 ダンジョン産業政策局。主に探索者業務に関する事業支援、就労支援を行う独立行政法人である。フリーランスの個人探索者のサポートから、中小クラン設立(≒法人立ち上げ)の援助までを行っている。


 素材の売買はもちろん、装備品の購買と修繕、各種依頼クエストの斡旋に、資料閲覧室、食堂、トレーニング設備、宿泊設備もある。

 とはいえD級探索者の収入程度ではそういったギルド設備の利用料が高すぎるため、たいして利用できないのだが、まあ仕方がない。


(といっても、夜もまた、アパートに住み着いた魔物討伐に出かけるんだけどな)


 昼に稼ぎ、夜にも稼ぐ。別にそこまでお金に困っているわけでもないはずなのだが、とにかく探索者稼業は装備品にお金がかかる。かといって命がかかっているのでお金を惜しむのは禁物。お金を稼いで、いい装備品を手に入れて、大怪我や病気になったとき用の蓄えを一部残して……の繰り返しである。


 特に最近は、夜の魔物駆除が楽しみになってきたところである。何故ならあれから二週間経ったからだ。






 ◇◇◇






「最高じゃねーか! やっぱ骸骨に全任せが一番効率がいいな!」


 あれから二週間、毎日こつこつと骸骨を従魔契約し続けた結果。

 魔物を狩る骸骨に十三匹。

 俺の手伝い&骨を拾い集める要員に五匹。


 戦闘要員を増やしたおかげで、一日に狩ってきてくれる数が三~四匹ぐらいに安定してきたのだ。

 もうちょっとわかりやすい言い方をすると、何もせずに10000マナ程度の不労所得。ぶっちゃけ凄く美味しい。何せ、駆け出し探索者のころの自分は、魔物を月に三〇匹狩ればぎりぎり暮らしていけるぐらいの節制生活をしていたので、一日に三匹ぐらい何もせずに狩れるとなればかなり豊かな生活を送ることができる。


 もちろん骸骨の何匹かは魔物との戦いの過程で損耗していったが、今は、損耗した部分を他の骨に置き換えたりすることで対処している。


「アパート群に勝手に住み着く魔物たちをどうしようか悩んでたんだけど、これ、答え見つかっちゃったな。俺は儲かる、アパートはどんどん安全になる、一挙両得だこれ」


 採らぬ狸の皮算用ではあるが、また二週間たてば十匹近く骸骨を増やせる。

 そうすれば(弱い魔物限定ではあるものの)魔物を今の倍近く狩ることができる。そんな感じでこつこつと骸骨を増やしていけば、やがて俺は何もしなくても裕福な生活を送ることができる。

 まさに左うちわで暮らす、ってやつだ。


「やべー、こっちに専念しようかな。だって骸骨に全部任せて放置しても、《魂の位階レベル》成長するよな、これ。でも確実に腕なまるよなー……」


 何匹まで使役できるのだろうか。使役できる骸骨の数に上限はあるのだろうか。

 もう少し《死霊使い》の検証をしたいという欲がむくむく膨らんでくる。


「地下鉄ダンジョンとかだと、確実に骸骨を使役してる姿を他の人に見られちゃうしな……だから、人気のないこの伽藍洞区あたりで地上の魔物を狩り続けるのが一番いいんだけど……」


 あれこれ悩むが答えはでない。

 果たして、今のままの生活を続けていいものだろうか。かといって別に、今上手く回っているのだから、下手に現状を変える必要もないのではないか。


 現状維持。新たな挑戦。

 挙句の果て、俺の出した結論は、至極ありきたりなものだった。


「よし、お金貯めよう。たくさん貯めて、目玉飛び出るぐらいにいい装備を買って、強くなって……を繰り返そう!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る