第2話 放置してても魔物をちまちま倒せるよう試行錯誤をするやつ & おっぱいクソデカOLお姉さんに同棲誘われるやつ
(ふぃー、今日も大量大量っと。これだけ狩ったら、一週間分の食費にはなるんじゃねーかな? また魔石買い取ってもらわなきゃなー)
金属バットに付着した体液を丁寧にふき取りながら、俺は大きなため息を吐き出した。充実感。今日はよく働いた。この旧伽藍洞アパート群は広すぎるから、魔物駆除も一苦労だ。
バッタの魔物。カメムシの魔物。ネズミの魔物。どれも大して強くない魔物で、
一匹一匹は小さいペットぐらいの大きさだが、数を倒し過ぎて俺一人では抱えきれないので、現在、骸骨たちにも荷物運びを手伝ってもらっていた。
魔物と言っても、大きな体格の生き物から小さな生き物まで幅広く存在している。もはや完全に駆除しきるのは不可能ではないか、というのが先進国政府たちの正式な見解である。これからは魔物化した生物と平和的共生の道しか残されていないだろう、ということで、我が国【Domain:JPN】は魔物食の研究にまで踏みきっているぐらいだ。
話が逸れた。魔石である。
魔物化した生き物は、体内に魔石が出現する。この魔石という物質は、政府によると魅力的な化学資源なのだそうだ。都市発電とか精密機器製造とかに使っていると聞く。詳細は知らない。
俺たち探索者は、この魔石を大量に収穫して、それを冒険者ギルドに献上している。
一部の地方都市なんかでは、魔石を通貨代わりに使っているところもあるそうだ。
(ひとつ、ふたつ、みっつ、……おお、いいねえ、合計で八個も魔石が見つかったぜ。こいつは調子いいじゃねえか、へへへ)
魔石一つが3000マナだとしたら、ざっくり24000マナも稼いでしまったことになる。
これだけあればちょっとした高級料理だって食べられる。素敵な金額だ。冒険者稼業は儲かるというのは本当の話だ。
「でも、こっちはあんまり順調じゃないな……」
アパートの自室に帰ってきた俺は、無残な姿で帰ってきた骸骨たちを目の当たりにした。
頭やら右腕やら左足やらを失っている。一匹は脊髄がぼっきり折れて上半身しか帰ってきていない。
全員、身体のあちこちにヒビが入っているし、武器は紛失している。こりゃ酷いものだ。
そう。骸骨に魔物を狩らせようとしているのだが、これが全然うまくいってないのだ。
今日で《死霊使い》の能力に目覚めて十日間。使役している骸骨は七匹。
骸骨二匹は、骨探し&俺の手伝い。
骸骨三匹は、魔物狩り。
骸骨二匹は、ダンジョンコアの欠片を集める作業。
そんな感じで回しているのだが、魔物狩りにつぎ込んでいる骸骨たちの損耗がとても激しい。
「おいおい……魔物狩りに回しているやつで、とうとう無事なのは一匹だけになっちまったか? こりゃもう駄目だな。また作り直さなきゃ話にならねえや」
賢明な人は、十日経っているのに七匹しか使役できていないことに気づいたかもしれない。
一日一匹使役できるはずなのに何故こうなっているかというと、魔物狩りを任せている骸骨たちが途中で損耗してしまっているからである。
簡単に倒せる魔物しか任せていないはずなのに。
いや、その考えはよくないか。本来、魔物退治は危険な行為なのだ。むしろ俺の代わりに一匹仕留めてくれただけでも感謝しないといけないだろう。
「そうだなあ……これからは魔物狩り要員の骸骨を増やすかなあ」
頭を掻きながら、俺はぼやいた。
ダンジョンコアの欠片を集めるのは一旦中断して、魔物狩り要員に回すのがいいだろう。骨探し&俺の手伝い要員として確保していた二匹の骸骨も全部魔物狩りに回す。
その代わりに、今日の探索で損耗してしまった奴らを、骨探し&俺の手伝い要員に置き換える。こいつらは別に、俺の荷物を運んでくれたり、俺の代わりに魔物の接近を察知してくれたらいいだけなので、身体が欠損していてもさほど問題はない。
(まあいいか。骸骨が魔物を倒しても、問題なく《
これで明日は、魔物狩り要員が四匹に増えた。これで、少しは魔物狩りが楽になるかもしれない。
◇◇◇
■カンザキ・ネクロ
【探索者ランク】
D級探索者
【ジョブクラス】
《一般人Lv5》《死霊使いLv1》
【通常スキル】
「棍棒術3」「強靭な胃袋1」
◇◇◇
「カンザキ君? 最近バイトのシフト入ってくれないけどどうしたの? うちの時給じゃやっぱり厳しい?」
ターミナル清掃のバイトのおっぱいクソデカ先輩(サエキさん)が、深夜休憩の時間に俺の隣にやってきてそんな心配をかけてくれた。凄く優しい。これうっかり惚れていいやつだろうか。
だが素直に答えていいものか分からなかったので、言葉を濁しながら俺は返事した。
「いやあ、ハンター業のほうがちょっと忙しくなったんですよー。ほら、俺ってお金ないから解放区の住居住めないんすよ。ね? かといって難民テントで寝泊りするのもめっちゃ辛いし、ハンター業でお金稼ぎしつつ、経費で宿泊施設に泊まった方が色々都合がいいんす」
嘘である。
D級探索者ごときで経費なんか落ちたためしがない。こんな俺の薄っぺらい嘘、調べようと思ったらすぐバレるだろう。
だがサエキさんは追及しないでくれた。代わりとばかりに俺の耳元でそっとつぶやく。
「じゃあ、うち泊めてあげよっか」
「エッ!?」
エッッッッと頭の中で強烈な驚きが反響した。衝撃的すぎて何考えてたか吹き飛んでしまった。それって"お泊り"ってことだろうか。
そんなの最高過ぎて最高である。やばい、馬鹿になっちゃってるかもしれない。元から馬鹿だから全然いいのだが、なんだか素敵な可能性を感じてしまって目が眩んでいる。だってクソデカいんだから仕方ない。
でも骸骨を放置してあのアパートから出るのはいいのだろうか。せっかく上手く回り始めたところなのに。大きすぎる欲望を前に、理性的な判断が邪魔をする。
「……。冗談だって、うち女子寮だから無理だよ。入口の顔認証で多分弾かれちゃうと思う」
「……いやー、心臓に悪いっすよ先輩!」
びっくりした。そりゃそうである。サエキさんはこう見えてターミナルの職員なので、ちゃんとした社員寮で生活を営んでいる。
一応説明しておくと、ターミナルというのは物資輸送鉄鋼列車の停泊する駅であり、《
なので、サエキさんはいわゆるエリート国家公務員と言った方が正しい。恐ろしく勉強ができる人じゃないと就職できなかったはずだ。
「そろそろ休憩終わりですね! 清掃頑張ります! 今日も魔物たくさん来てると思うんで、早く綺麗にしないと大変ですよね!」
「あっ、カンザキ君……!」
名残惜しそうなサエキさんを背に、俺は自分の持ち場にさっさと戻った。
楽しかったんだけど、そろそろターミナルのバイトも辞め時かもしれない。
◇◇◇
「……。社員寮出て、私が保護者になったら、ハンター専門学校に行けるのにって言おうとしたんだけどな」
一人取り残されてしまった女性職員は、そんな誰に向けたものでもない言葉をぽそりと呟いた。
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