34話 お化け屋敷

「うぅ……怖いよぅ……なんか女の子の泣き声もするし……」

「確かに、これはすごいな」


 現在、俺たちはお化け屋敷の中へ入り歩を進めている。

 どうやらこのお化け屋敷の中にいるお化けは、ある御札を祭壇に納めることで封印出来るようだ。

 その御札は入口にいる女性が持っていたが、中にいるお化けが怖くて封印に行けない様子。

 そこで俺たちが女性の代わりに御札を祭壇に納めて帰ってくる、というのがこのお化け屋敷のストーリーらしい。


 スタッフの演技力の高さといい、どこかのRPGにあるようなストーリーの出来といい、このお化け屋敷は完成度が高い。

 中もよく作り込まれていて、俺たちは一気にこの世界観に引き込まれてしまった。


 特にこころが。


「何で私が御札を納めなきゃいけないんだよ……私だって怖いんだぞ?」

「そんなに怖がらなくても、死にはしないよ」

「死にはしなくても、怖いものは怖いんだよぅ……」


 すっかり弱気になってしまったこころは俺の腕をぎゅっと抱いて離れない。

 さっきの力説と自分の言動との矛盾も気にする余裕がない様子だ。


「ひっ、今何かがそこで動かなかったか!?」

「墓石が動くわけないだろ」

「バカっ、その後ろだよ!」

「後ろ?」


 確認しようと墓石の後ろへ行こうとすると、こころに腕を引っ張られて阻止される。


「ななっ、何してるんだお前は!?」

「お前が何か動いたって言うから確認しに行こうとしただけだ」

「私を殺す気か!」

「怖いならここにいろ、確認してくるから」

「やだっ、もう離れたくない……」


 弱々しい声でそう言って、体を寄せながら更に俺の腕を抱く力を強めるこころ。


 反応は確かに物凄く可愛いんだが、ここまで怖がられると仕返しする気力も失せてしまった。

 だからと言って引き返すわけにもいかない。


「じゃあ早く行こう。じゃないとずっとお化け屋敷の中だぞ」

「うん、行く……」


 そうして俺は涙目のこころを連れて進んでいく。

 道中、すすだらけの小さな靴が落ちているのを見つけた。


「これは……女の子の靴か?」

「本当だ。しかも片方だけ」


 状態を見るに一般客が落としていったものではないようだ。

 ということは、このお化け屋敷に関係するものなのだろうか。


「……持って行ってみるか」

「も、持ってくの?」

「何かあるかもしれないからな」

「罰とか当たらない……?」

「当たるとしたら拾った俺だから、お前が気にする必要はないよ」


 こころを安心させるように、なるべく優しい声音を心がけて諭した俺は女の子の靴を拾う。


 こういうところに目が行くようになったのも、きっとグロテスクな探索ゲームをやり込んだからだろう。

 お陰でお化けへの耐性もついたし、やっていてよかったかもしれない。


 進んでいく途中でもう片方の靴も手に入れ、俺たちはようやく祭壇へと辿りついた。

 意外にここまでお化けは一人も見かけていない。


「早く、御札を納めて出よう」

「そうだな」


 こころが急かしてくるので俺たちは御札を納めようと祭壇に近づくと、道の脇からうめき声とともに服がボロボロのお化けが現れた。


「きゃぁぁっ! 留衣っ!」

「分かってる、早く御札を納めよう!」


 いずれ出てくるとは分かっていても、流石に出てきたときはビビってしまった。

 幸いお化けは俺がいる方から出てきたため、俺は怖がるこころを背中に迫りくるお化けと距離を取りながら祭壇に御札を納めた。


「納めたっ!」

「早く、早く逃げよう!」


 そうして俺はこころに手を引かれてその場から小走りで逃げる。

 お化けは途中まで追いかけて来ていたが、入口につく頃には見えなくなっていた。



         ◆



「――いやー楽しかったな、こころ」

「し、死ぬかと思った……」


 お化け屋敷のアトラクションから出てきた俺たちはそんな言葉を交わす。

 あの後、俺たちが御札を譲り受けた女性に代わりに納めてきたこと、道中で女の子の靴を拾ったことを伝えると、女性はこんなことを教えてくれた。


 実は女性は自分の子供と亡くなった父親の墓参りをしていたところ、お化けに襲われるようなこの異変に巻き込まれてしまったらしい。

 そこから逃げる際に子供とはぐれてしまい、今も子供はお化け屋敷の中から戻らないという。

 子供の安否を心配していたらしく女性は渡された女の子の靴を見て酷く悲しんだが、御札を納めたことと靴を見つけた礼として俺たちに「交通安全」のお守りを渡してくれた。


「よく出来たストーリーだったな」

「それに関しては同感だ。留衣が拾った靴に、まさかあんなお話が隠されているとは思わなかった」


 お化け屋敷の怖さとしてはそこまでだったが、その分ストーリーや探索要素が練られておりとても楽しむことが出来た。

 こころの普段は見られない可愛い姿も見られたし、個人的に大満足のお化け屋敷だった。


「そろそろ昼だな。どこかでご飯でも食べるか?」

「あぁ。お化けが怖すぎてお腹空いた」

「何だそれ」


 俺たちは他愛もない会話に笑顔を咲かせながら、再び手を繋いでレストランを探すのだった。

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