28話 また放課後で
「こころ……!?」
吉沢の手首を掴んでそう言い放った少女は、衣沙こころだった。
俺の困惑の声が届いていないのかと錯覚するほど、彼女は微動だにせず無表情のまま吉沢を見つめている。
「こころ……まさか、あのミスか!?」
動揺する吉沢。
自分の不利を悟ったのか、戦慄するように目を見開いた。
「……痛みつけられたいか」
「ひっ……」
こころは相当頭に来ているのだろう。
先程の吉沢とは比にならないほど暗く、低く、冷え切った声は吉沢を震え上がらせていた。
さっきまでの威勢は、一体どこへ消えたのか。
「嫌なら、これ以上留衣とゆうひに関わるのはやめろ。二度と視界に入るな。いいな?」
「わっ、分かりました! だから、もう勘弁してください! お願いです!」
必死の訴えが届いたのかこころは吉沢の手首を、まるでゴミでも捨てるかのように荒々しく離す。
開放された吉沢は、その反動で体制を崩しそうになりながらも覚束ない足取りで逃げていった。
「……こころ、さん?」
「か、勘違いするな。私は留衣が危ない目にあっていたから助けただけだ。ゆうひを助けたかったわけじゃない。お前はあくまでついでだ」
捲し立てるこころは俺たちにずっと背を向けている。
その姿を見た夕陽はクスリと笑みを零した。
「それでも、助けてくれてありが――」
「そ、それじゃあなっ!」
こころは夕陽の言葉を遮って吐き捨てると、この場から逃げるように走り去っていく。
「こころ!」
呼び止めるが、こころは止まるどころがそれを合図にどんどん加速していく。
そうして数秒もしないうちに彼女の姿は見えなくなってしまった。
……どうして、こころの声は震えていたのだろう。
吉沢を脅すところまでは、いつもと何ら変わらないこころの真っ直ぐな声だった。
でも夕陽と会話をするときだけ、何故か彼女の声は不安定に揺れていた。
何か、あるのだろうか。
「行かなくていいんですか?」
「えっ?」
夕陽のいきなりの問いかけに思わず腑抜けた声を上げてしまう。
「どうして……」
「こころさんと話したいこと、あるんじゃないですか?」
「っ……」
流石は夕陽、俺のことをよく見ている。
でも……。
「いいのか?」
俺は夕陽への返事をどうするかまだ迷っている。
そんな状況で、恋のライバルとも呼べるこころの元に俺を送ってもいいのだろうか。
やはり口に出さずとも、夕陽には俺の言いたいことが伝わっている。
彼女は優しく微笑んで言った。
「今の私に、幼馴染の仲を裂く権利はありませんよ。私は大丈夫ですから、行ってきてください。放課後、屋上で待ってます」
「……ありがとう」
端的にそれだけ告げると、俺はこころの後を負追うために走り出す。
夕陽には申し訳ないが、今はこころの方を優先させてもらおう。
夕陽とは、後でいくらでも一緒にいられるから。
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