11話 留衣の誕生日プレゼント
「――なぁ、留衣」
「どうした?」
屋上で弁当をつついていると、同じく屋上で弁当を食べていたこころが無表情のまま話しかけてくる。
どうやら表情は数日たてば元に戻るらしい。
水族館で起きた出来事ほど感情を揺さぶられる瞬間がなかったからかもしれないが、最近になってこころの表情は再び動かなくなってしまった。
この前の顔の方が可愛くてよかったんだけどなぁ、とこころの顔を見ながらそんなことを思っていると、こころは前のめりになりながらいきなりこんなことを言った。
「お前、もうすぐ誕生日だよな」
「誕生日……もうそんな時期か」
こころに言われて考えてみれば、確かにもう少しで俺の誕生日だ。
つい最近十五歳になったかと思えば……時間が経つのは早いな。
「よく覚えてたな」
「お前、まさか忘れてたのか? 自分の誕生日を?」
「お前に言われなかったら忘れたまま歳を取っていたかもしれない」
「誕生日は一年の中で一番大切な日だ。それすら忘れるなんて、自分を大切にしていない証拠だぞ」
「自分を大切にしていない、か」
自分を大切にして、何の意味があるのだろう。
そりゃあ生きる上で自分を大切にするのは大事なことだ。
自分を粗末にしてしまえば、最悪死ぬ可能性だってある。
でも、何も取り柄のない俺が生きている意味なんてどこにある?
生きる理由がどこにある?
今生きているのだって特に何かを成し遂げたいとか、そういうものがあるわけでもない。
ただただ何もせずにダラダラと生きているだけ。
そんな俺にとって、生きる理由などあるのだろうか。
「……留衣、大丈夫か?」
彼女の声に俺は思考の渦から引っ張り出される。
見ると、彼女は下から俺の顔を覗き込んで不安げな表情を浮かべていた。
……久々に浮かんだ彼女の表情を、マイナスなものにさせてしまった。
一度思考したらその渦からなかなか抜け出せないのは俺の悪癖だ。
自分を責めるような、マイナスな思考は特に。
直さなきゃな。
そう思いながら、俺はこころに微笑んで見せる。
「ごめん、大丈夫だよ」
「本当に?」
「あぁ、本当だ」
「ならいいが……留衣は、欲しいものって何かあるか?」
「欲しい物?」
彼女の言葉に俺は首を傾げる。
何故いきなり俺の欲しいものを聞きたがるのだろうか?
「言っただろう、もうすぐお前の誕生日だって。何かプレゼント買いたいと思ってな」
「プレゼントって、いいよ別に。俺、欲しいものないし」
「欲しいものがなければ選んでもらう。丁度その日は休日だし、品揃えの豊富なデパートにでも行けば留衣の欲しいものくらい見つかるはずだ」
「おい、話を聞いてるのか」
暴走気味の彼女の言葉に制止をかけようとしたのだが、彼女は俺が声をかけるなり唇を尖らせてこちらを睨みつけた。
「私が留衣にプレゼントを買いたいの! だからつべこべ言わずに買わせろ!」
「なんで俺にプレゼントを買いたいんだよ。買う意味なんてないだろ?」
「日頃の感謝だ!」
「感謝?」
「それと、留衣が自分を大切にしないなら私が留衣を大切にする!」
「は、はぁ?」
いきなり告白まがいなことを言われてしまったので、俺は思わず頬を熱くしてしまう。
言った本人は自分が告白まがいなことを言ったと気づいていないようなので尚更だった。
なんでこころはそこまでして俺にプレゼントを買いたいのだろう。
感謝されるようなことをした覚えもなければ、こころが俺を大切にする意味も分からない。
でも、そこまで言われてしまっては俺も断るに断れなかった。
諦めた俺は、ため息をついて口を開く。
「……分かったよ。何言っても聞かなさそうだしな」
「分かってくれればそれでいいんだ」
諦めた俺を見て、こころはどこか満足そうな表情を浮かべる。
「んで、今週の土曜日だっけか?」
「日曜日だ。本当に覚えてないんだな。土曜日は私が一日中バイトだから無理」
「一日中バイトって、あのコンビニだけじゃないのか!?」
「当たり前だろう。あそこだけじゃ生きていけない」
「そうだったのか……」
だったら尚更俺にプレゼントを買わないほうがいいんじゃないのかとも思ってしまったが、これを言うのは野暮というもの。
せっかく彼女が俺にプレゼントを買いたいと言ってくれているのだから、その好意はありがたく受け取ることにしよう。
「何個か候補を出しておけよ。選ぶ時間だって無限じゃないんだからな」
「分かったよ」
というわけで、先週は水族館に行ったのにも関わらず今週はデパートに行くことになった。
最近はこころとどこかへ行く機会が多いな。
元はインドアでどこにも行きたくなかったのに、彼女と行くならどこでも楽しく感じる。
デパートなら歩き回って運動にもなるし、誘ってくれたこころに感謝だな。
美味しそうに炒飯を頬張るこころの顔を見ながら、俺も野菜炒めをつつくのだった。
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