最終話 あの空に


彼女の元に行くと、少し決まり悪そうに、俺から目線を外す


「静琉…」

「蒼くん…」

「昨日、静琉のお父さんから聞いたんだ」

「え?聞いた…って何を…」

「陸斗くんのこと」

「………」

「あと、さっき兄さんとも話してきた」

「あ、あの…」

「静琉は、やっぱり兄さんが、今でも好きなの?」

「そんなこと…」

「大人になった兄さんはカッコいいよね。男の俺が見てもそう思うよ」

「ちょっと、蒼くん…何を…」

「でも、俺は、俺だよ」

「え…?」

「静琉?俺は、緋村蒼介は、俺なんだよ」

「ちょっと、何言ってるの?」

「俺は、静琉が大好きだった陸斗くんでも、たぶん初恋の相手だった兄さんでもない、俺は俺なんだよ」

「蒼くん…」

「俺は…静琉に、俺を見てほしいんだ」

「そ、蒼くん…」

「俺さ、色々考えて、改めて分かったよ」

「何を…」

「…愛しています」

「そ…蒼くん…」

「だから、これからも、ずっと俺と一緒に、俺の隣にいてください」

「蒼くん!」


彼女は大粒の涙を流しながら、俺の胸に飛び込んできた


「うぅ…ぐす…」

「静琉…」


背中をトントンしながら軽く抱きしめると、静琉はギュッと、まるで、そんなんじゃ足りない、と言わんばかりに抱きしめてきた


「蒼くん…私…私…」

「うん」

「ごめんね…。私…蒼くんの中にあの子のこと、それと緋村くんのことを重ねてたと思うの…」

「うん…」

「あれから本当に、久しぶりに緋村くんを見て、確かにカッコよくて、あの時の気持ちを思い出しちゃって…それで…」

「うん、そうだろうね」

「でも…でもね、私は…私も蒼くんじゃないとヤなの…蒼くんがいいの…」

「静琉…」

「最初はただ似てるから、って、そこからだったかもしれない。でも、蒼くんは優しくて、私の想いにいつも応えてくれて、それに…これは…この指輪は…」


体を少し離し、泣いたせいでまだ赤い目で俺を見つめ、指輪を左手で握りしめる彼女。


「この指輪はね…私の宝物なの…」

「静琉…」

「お願い…私の傍にいて?…」

「うん、いるよ」

「私も…愛してる…だから……」

「…だから?」

「だから…結婚しよ?」

「うん……って、え?」

「じゃあ、市役所行こ?」

「ちょ、ちょっと待って!」

「え?」

「前にも言ったと思うけど、俺、高一だからまだ結婚できないんだよ」

「平気だよ。愛に年齢は関係ないもん」

「そういう問題じゃ…」

「大丈夫だよ。もう、心配性なんだから」


特別そこまで心配性じゃないと思ってるし、何が大丈夫なのかは、相変わらず分からない


「ね?」と、涙目で可愛く俺に微笑みかける彼女は可愛くて、なんかもうどうでもいいかな、なんて思えてきた



「おーい!そろそろ帰るぞー!お前ら、置いてくぞー!」

「「え!」」


慌てて二人でみんなの所に戻ると、微笑ましいものを見る目で見られている


恥ずかしい…


「全く、お二人さんはラブラブなんだから」

「いや、あの、そういうわけじゃ…」

「え?蒼くん?ラブラブじゃないの?」

「へ!?いや、だから、その…」

「あんなの誰が見てもラブラブだろ」

「ちょっと…兄さんまで…」


親兄弟に抱き合ってるところを見られ、その上それを弄られる。恥ずかし過ぎるだろ。

たぶん、この先の俺の人生で、これ以上の辱めはないだろう


「だって私達、結婚するんだから」

「「「「「…え?」」」」」


五人とも声が揃ってる。すごいや

いや、そんなのに感心してる場合じゃない


「ね?だよね?蒼くん?」

「だから、まだ無理なんだって!」

「へ~。「まだ」なのね。へ~」


ちょっと、母さん、ニヤニヤしないで…


「もう!大丈夫って言ってるじゃない!」

「速水さん…それ、たぶん大丈夫じゃないと思うよ…」




みんなに笑顔で囲まれ、その輪の中で、もちろん照れくさいけど、でもそれ以上にあったかい気持ちになって、少し拗ねた素振りの静琉は俺の手を離さなくて、


俺は静琉の耳元で、小声で囁く


「静琉?…高校卒業したら…ね?」

「へ!?」

「しー…」

「は、はい…」

「ん?どうしたの?」

「な、なんでもない!」

「顔赤いよ?」

「そんなことないもん!」

「本当に?」

「うぅ…」

「大丈夫?」

「もう…もう!大丈夫なわけないでしょ!蒼くんは不意打ちが酷いんだから!」


自分で言ってたくせに、いざ言われると照れるんだな。本当に可愛いな



「蒼?静琉ちゃんになんて言ったの?」

「ん?内緒だよ」




でも、いつか本当にそうなればいいな


いや、むしろそうなるように、俺が…ずっと静琉の隣でいられるように…





冬の澄んだ空に雲はなく、水色の青空が綺麗に見え、俺は、あの空に願いを込める




おじいちゃんとおばあちゃんになるまで、

二人で楽しく過ごせますように…



「蒼くん?どうしたの?ぼーっとして」

「ん?うん。なんでもないよ」

「本当に?」

「うん。さあ、行こ?」

「うん!」



大好きな、この女性ひとと一緒に…









・・・おしまい・・・





……………………………………………


作者の月那です


あともう一話、エピローグ的な話も書いてはいましたが、やっぱりここで終わるのがいいなと思い、このお話を最終話としました。

この先、二人でどんなふうに過ごすのか、楽しみです



それでは、最終話まで読んでいただき、ありがとうございました。

もしよろしければ、ご意見ご感想などお聞かせくだされば、今後の糧、励みにもなりますので、どうぞよろしくお願いします


また、前作、今作を踏まえて、次回作もプロットを立て、何話か書き進めているといった感じです。

いつかそのお話なのか、また別の物語なのか、どこかで皆さんとお会いできる日が来ますよう



では改めて、最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました


月那でした





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【完結】速水さんは大丈夫じゃない 月那 @tsukina-fs

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