第72話 昔話
「昔話だと思って聞いてくれるかい?」
「分かりました。お願いします」
お父さんは幼少期、小学校と、アルバムを開いて俺に見せながら、順に話してくれた。
どの写真の静琉も可愛らしく、笑顔で写っていて、その傍らにはいつも男の子が
「これが陸斗だよ」
陸斗くんは二つ下の弟で、お姉ちゃん大好き、静琉も弟が大好きと、ある意味心配になるくらい仲が良かったそう。
でもあるページを最後に、彼がこのアルバムに出てくることはなくなる
「君達が転校したその年の夏休みに、事故に遭ってしまってね」
そう、彼は交通事故に遭い、そして…
「大好きだった弟、そして、学校でよく庇ってくれてた君のお兄さん、二人とも静琉の前からいなくなってしまったんだ」
お父さんは柔らかい表情は崩さないまま、でも、悲しげな目でそう言う。
それから静琉は引きこもりがちになり、よくこのアルバムを見ていたよう。
そして、たまに外で彼と同じくらいの背格好の男の子を見つけては、また家に帰りアルバムを眺める、といった感じだったらしい
「陸斗の写真を見て、気付かないかい?」
「え?」
「目がね、蒼介くんと似てるんだ」
言われて写真を見返してみると、ふにゃっと笑ったその彼の目は、確かに俺に似てるかもしれない
「そして君は、当然兄弟だから、悠介くんとも似ている」
大好きだった弟と、恋心を抱いた兄さんと、二人の面影がある俺
「そういうことですか…」
「すまない。本当なら、こんな事は話さないのがいいのは分かってる。でもね、一人娘となってしまった静琉には、幸せになってほしい。蒼介くん、君には静琉の隣にずっといてやってほしいんだ」
そういえば母さんが言ってたな。静琉は俺が一緒にいれば大丈夫だと。
そうか。このことを知ってたんだ
でも、いきなりそんな話をされても…
俺は…陸斗くんと兄さんの身代わりなのか?
この日はここで速水家を後にし、母さんと待ち合わせした場所に向かうことに
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「母さん…」
「蒼?どうしたの?」
「母さんは…知ってたんだね」
「…聞いたのね」
「うん。おじさんが話してくれたよ」
「黙っててごめんね」
「うん…」
「丁度いいわね。あなた達に話すわ」
「え?あなた達?」
母さんの運転で着いたのは小さな一軒家。
ここで父さんと二人で暮らしているらしい
「蒼介、元気にしてたか?」
玄関を開けて中に入ると、俺を出迎えてくれたのは…
「兄さん…」
「どうした?疲れたか?」
「どうしてここに…」
「冬休みで帰ろうと思ってたら、母さんにお前がこっちに来るって聞いてな。それで俺もこの家に帰ることにしたんだ」
「悠介、蒼介、今日は疲れたでしょ。明日、みんなで初詣に行って、その後、少しお話しましょうか」
「母さん…」
「蒼?とりあえず今日はもう休みなさい」
「…分かった」
案内された部屋で布団に入ったけど、いろんなことが頭の中を駆け巡って、でも、疲れからか、日付が変わる頃には、俺は眠りに落ちていた
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
翌日、父さん、母さん、そして兄さんと四人で初詣に出かける。
一昨日静琉と行ったけど、今はその時のような楽しさはなく、心の奥がモヤモヤしたような、そんな感じだ
せっかく、何年ぶりかでこうして家族四人で来たっていうのに…
「蒼介はおみくじ引かないのか?」
「あ…うん。もう向こうで引いたんだ」
「あの神社か?」
「そうだよ」
「どうだった?」
「末吉だったよ」
そんな話をしながらお参りを済ませ、歩いていると母さんが「少し付き合って」と言うので、後をついて行くと
「…え…緋村くん…?」
聞き慣れたその声
そこには彼女とご両親の姿が…
「あ…」
「え?…もしかして、速水さん?」
「悠介、蒼介。二人とも、みんなで少し、お話しましょうか」
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